「うわああああああっ!」



僕は思わず叫び声をあげて絵を落とした。床に落ちた衝撃で額縁が派手に砕け散る。

「真冬、大人しくしないとダメよ? ほら、こんなにも鈴の音が大きくなってしまったじゃない」

「やめて……こっちに来るな……!」

「どうして? 私は真冬の為を思って言っているのに。真冬は安静にしないといけないのに。逃げるのなら……またあのお部屋に閉じ込めなきゃいけないじゃない」



怨嗟の声を上げながら、アイラがこちらに手を伸ばしてくる。ダメだ、逃げられない――

僕が思わず目を瞑った瞬間、辺りに雷の轟音が鳴り響いた。

「キャア!」



アイラが叫び声を上げると同時に突風が家の中を走り、一斉に燭台の火が消えて辺りは暗闇に包まれる。

今だ!

僕は立ち上がると、アイラの横を駆け抜けてアトリエを飛び出した。

そのまま家の出口に走ってドアノブに手をかけたが、またしてもドアは頑として開こうとしてくれない。

「くそ……どうしてこの家は言うことを聞かないんだ……!」



僕が力任せにドアを叩くと、後ろから彼女の声がした。

「真冬……どこ……どこなの……大人しくしてないとダメなのに……!」

「くるなああああ!」



鬼気迫るアイラの声に、僕は完全にパニック陥って走り出した。

アトリエからは必死に辺りを見渡しながらアイラが出てくるのが見えた。

髪を振り乱し、目は深海の様に淀んで完全に据わっている。今度彼女に捕まったら、きっと二度と僕はあの部屋から出られないだろう。

その時、僕は階段とアトリエの間に廊下があることに気付いた。

そう言えばこの奥にはリンゴや小麦粉を貯蔵する物置部屋があったはずだ。今はそこに逃げるしかない!

僕は間一髪アイラの前を駆け抜けて廊下に走ると、右手にドアノブを見つけて手をかける。

これで開かなかったら完全に袋小路だったが、幸いにもドアは開き……僕は転がりこむようにして部屋に入り、すぐさまドアに飛びついて鍵を閉める。



ガチャガチャ、ドンドン!