次の日、鈴の音に起こされて僕が目を開けると既に窓の外は真っ暗だった。

どうやら今日は随分長い間眠っていたみたいだ……とその時、温かい感触に気付いて手元に目をやるとアイラが横に座っていて僕の手を握っていた。

「アイラ……⁉ 何して――」

「しっ! 静かに!」



アイラは人差し指を立てて僕を黙らせると、僕の腕を握ったまま再び目を閉じる。

ドキドキと脈打つ僕の鼓動がそのままアイラに伝わっていると、恥ずかしくて僕は思わず俯いてしまう。

静寂の中、厳かな鈴の音だけが虚空を震わせる。そんな気まずい時間が十分程続き、アイラは再び目を開けるとさっきのシリアスな表情が嘘の様な明るい声で僕に笑いかけた。

「よし! じゃあ真冬、ここを出ようか」

「え? いいの?」

「いいのって、元から私は真冬を監禁したつもりはないわよ?」

「だって、ドアに鍵がかかってたじゃないか」



昨日までのことを思い出して抗議する僕に、アイラは嘆息する。

「ほら、またそういうことを言う。あれは私がかけたんじゃないでしょ」

「でもアイラ以外にこの家は誰もいないんでしょ?」

「いるよ」



アイラが責めるような目つきをしたので、僕は再び顔を逸らす。

「真冬のそういう所、私キライ。話す時はちゃんと相手の目を見るものよ?」

「……僕もアイラなんかキライだ」

「あ、やっと名前で呼んでくれた」



彼女はパッと顔を輝かせた。やはり外見に似合わず、中身は結構単純な性格みたいだ。

――すぐに拗ねたり顔を赤らめていたとある少女の記憶を思い出して、僕は再びノスタルジックな感覚に陥った。

やっぱりイブとアイラは同一人物なんじゃないかと思っている自分がどこかにいる。

でもその一方で、イブはあの時僕がこの手で殺したじゃないか……と、もう一人の自分が僕を激しく責め立てる。

「なーに難しい顔で考え込んでるの?」



突然アイラに顔を覗き込まれて僕は我に返った。

「そういう所は真冬の悪い所よ。すぐにウジウジ悩んだり考え込んだりして。そのせいでイブも私も毎日苦労してるんだから」

「……ねえアイラ、どうして僕のことをそんなに知っているの? 僕には彼女も友達もいない。家族は仕事にかかりっきりの両親と、唯一僕を気にかけてくれる妹だけ。でも君は妹じゃない。だとしたら――」



そこで僕は言葉を詰まらせた。

何故なら目の前でアイラが悲し気に微笑んでいて……それ以上何かを言えば、今にも泣きだしてしまいそうだったから。

また僕は――アイラのことを傷つけてしまったのだろうか。

「ねえ真冬、早く行きましょう」



アイラはそんな心中をおくびにも出さず、僕の手を引いた。

「行くって、どこへ? 外は相変わらず雨が降ってるのに」

「外に出なくてもね、このログハウスには面白いものがたくさんあるの」



「今から真冬にそれを見せてあげる」