彼女は、ゆっくり振り返った。

以前この世界に来てから少なくとも数年が経過している……そう考えれば全ての辻褄が合う。

イブはかつて僕より年下のまだ幼い少女だった。それに、外は毎日雪が降っていて雨なんか一摘も落ちてこなかった。

もし時間の経過でイブが成長し、この世界の気候が変化したのだとしたら……?

「キミは何も知らない……いえ、分かろうとしていないのね」



そう言って、彼女は不意に屈んで僕の頬に手を添えた。

「可哀そうな子。だから私が守ってあげないと」

「……⁉」



背筋を走る悪寒にゾッとして、僕は思わずアイラを突き放した。

「貴方は誰なんだ……⁉ やっぱり貴方はイブなんかじゃない! イブは僕を可哀そうだなんて言わない!」



アイラは、そんな僕を見て寂しさと悲しみが混在した表情を浮かべた。

「まだ現実から目を背けるのね……本当に可哀そうな子」

「僕に可哀そうだなんて言うな!」

「だったら、どうしてこの雨は止まないの? どうして鈴の音色はあんなに美しいの? 全部キミのせい。キミのせいなんだよ」



そして、アイラは部屋のドアノブに手をかけて振り返りながら言った。



「だけど安心して。ここにいる限りずっとずっと私が守ってあげるから――心音真冬(ここね まふゆ)君」