僕は口元に指を当て、真夏を静かにさせてから疲れ切って眠り続ける姉を見つめる。

「――お姉ちゃんは真夏をのけ者にしてたわけじゃない。きっと何となく気づいていたんだ。ずっと傍にいて強く念じ続ければいつか、僕のいる『あの場所』に行くことが出来るって。そして実際にお姉ちゃんは僕の箱庭に現れて僕を救い出してくれた。……ちょっとだけ意地悪で、強引なやり方だったけど」

「――お兄ちゃん? 何の話をしてるの?」



困惑する真夏に僕は微笑みかける。

「ううん、何でもない。要は僕の幻想にお姉ちゃんが出てきて助けてくれたってことさ」

「えー! それは凄いし嬉しいけど……でもズルイ! 私は⁉ 私は出てこなかったの⁉」

「イ……真夏の話もたくさんしたけど、でも姿は見なかったかな」

「何それ……やっぱり私だけのけ者じゃん……」



分かりやすく落ち込む真夏の頭に手を添えて、僕は語り掛ける。

「真夏はこの前助けてくれたから、きっと今回はお姉ちゃんの番だったんだよ」

「この前? この前って何のこと?」

「そうか、まだ話してなかったね。じゃあ――」



そして――僕は、穏やかな夢を見ているかのように安らかな寝顔を浮かべるお姉ちゃんを見つめて答えた。



「後で全部、僕の中で起こったことを話すよ。――お姉ちゃんが微睡みから覚めた、その時に」

(終)