友達ドール

目的地に着いた。

ふと、鼻をつく異臭に気づく。

「何…この嫌な臭い…」

鼻を手でおおう。
井戸の方から、まるで肉が腐ったような臭いがしていた。

早く目的を果たして帰ろう…そう思い、鞄から袋に入ったシャベルを取り出して切り株の辺りを掘った。


そんなに深くは埋めてない筈だけど…。

もうちょっと此方かな…?

泥を掻き出す音だけが辺りに広がる。


コツン…。


「…あっ…!」

数分してから、ようやくお目当てのタイムカプセルにシャベルが当たった。
額から出た汗を服の袖で拭う。

何年かぶりのお菓子の缶は、泥をかぶり、所々が錆び付いていた。

袋か何かをかけておけばよかったな…と思いながら蓋を開ける。


そこには。



白い袋が二つ入っていた。


どちらかが、理香子の入れたタイムカプセルの中身だ。

私は右側にあった袋を手に取った。
中を取り出すと、ピンクの熊のストラップが出てきた。

これは私の入れた物だ。
その年の夏…花火大会に理香子と行ったとき、
射的屋で理香子が取ってくれた思い出のストラップ…。

射的の苦手な理香子が、初めて打ち落とした記念品だった。

理香子本人も、いつものクールさを感じさせない程、無邪気に喜んでいたっけ。
いや、実は…あれが本当の理香子だったりするのかな。

無邪気で、明るくて…私と変わらない女の子。


「…なんてね…」

呟いて、もう一つの袋を開ける。
理香子は何を入れたんだろう…?


中を取り出すと…私は目を丸くした。



「―――な、んで…」


そこには。



そこには。





シュシュが、あった。




小学校の終わり、理香子が手作りしてくれた、お揃いの白とピンクの混ざったシュシュ。

中学時代は手首に通していたのに、高校生になってからはつけてなかった。

あの、シュシュ。


「…もう、理香子は捨てたと思ってたよ…」

視界が淡く滲んでいく。
ポタポタと目から大粒の涙が落ちてきて、初めて私は自分が泣いていることに気づいた。


―――ねぇ、理香子。

―――私達、ちゃんと友達だったよね。


涙を必死に拭う。

次に顔をあげた時、私は笑顔だった。

タイムカプセルを元通りにして、埋め直す。
今度はきっと、理香子とここに来れるようにと願いを込めながら…。

鞄から二組のシュシュを取り出して、両手首に通す。


―――また、きっと、会えるよね?



その時がきたら、私は胸を張ってこう言うんだ。


理香子―――。


―――また、私と友達になって下さい。





私は前を向き、タイムカプセルを背にして歩き出した。