友達ドール

「はい、完成よ…目を開けて」

恐る恐る目を開ける。
そこには、ショートカットにバッサリと切られた髪。

鏡の中の私は、どこか大人びて見えた。

「これが…私…」
「そっ、新しい貴女よ」
「―――ありがとう、ございます」

軽くなった頭を下げる。
どういたしまして~と美容師さんが私の髪に櫛を通しながら笑う。


お金を払い、店を出た。
風にのって、桜の花びらが目の前を通過していく。

「さて、行かなきゃ…」

私は学校近くの裏山へと足を向けた。
今日は春休み最後の日。
あれを掘りにいくなら今日しかないと思った。


***



雑草だらけの獣道を、記憶だけを頼りに歩いていく。

この先に確か、大きな桜の木があった筈だ。

最初にそれを見つけたのは彼女だった。
中学校最後の授業で、タイムカプセルを埋めることになり、この裏山にクラスメイト全員で来たのだ。
お互いに大切な物を、成人式の日に掘り起こす…その筈だったのだけど。

私は一足早く、それを掘り出しに来た。

理由は…彼女…理香子が、私の前からいなくなってしまったから。

理香子は多分…もう二度と、私の前に現れてくれない気がする。
去年の夏…あの花火大会の日、理香子は公園に来てくれなかった。

『私とは、もう会わない』

それが理香子の答えなんだと、頭が理解した。

心の方は…未だにその事実を信じようとしていないけれど。


「あった…桜の木」

木々に囲まれた裏山で、唯一木々がひらけて光が入っているこの場所…。
確かに、あの桜の木だった。
中学時代のクラスメイトと埋めたタイムカプセルは、この桜の木の真後ろに埋めている。
けれど…私と理香子はもう一つ、別の場所にもタイムカプセルを埋めていた。
私達二人だけの、タイムカプセルを。

この桜の木のさらに奥の方。

薄暗く、雑草におおわれた見えにくい場所に、井戸がポツンとある。
その井戸の近くにある、大きな切り株の近くに埋めた。

私は身の丈程の長さの雑草を掻き分けてそこに向かう。

会えなくなってから毎日、理香子があの日、何をタイムカプセルに埋めたのかが気になっていた。

―――お互い何を埋めたのかは、成人式の時まで秘密にしよう。

理香子の考えにあの日の私は頷いた。

理香子の考えに背いたことは今までない。

だけど…。


今はとにかく、理香子との思い出に出会いたかった。