入道雲がもくもくと空の青を飲み込んでいる。

僕はつまようじをくわえながら、今日再会した少女のことを娘に話した。

「…紺野 理香子に処方したお薬は、心の傷を塞ぐための物と、睡眠薬…用法と用量…何かを間違えれば私のお薬はすぐに副作用が出る」

娘が淡々と答える。
興味がないのだろう。

「お父様の話と行動から察するに、紺野 理香子には意識障害と人格変化の副作用が出てる」
「副作用はおさまると思うかい?」
「飲むことをやめれば。だけど紺野 理香子は飲み続ける」
「…その方が楽になれるから?」
「そう」

それが人という生き物だと娘は言う。
楽になる道があれば、自然と足はそちらに行ってしまうし、手はそれを求めるために伸ばされると。

「薬をキチンと正しく飲む人は、いないのかなぁ…」

そうしてくれれば、僕らの薬は害がない。
心の傷も塞がって…別れたお友達のことはいい思い出としてしまえた筈なんだよ、理香子さん。

このまま薬を飲み続けたとしたら…その友達とお父様のことは忘れてしまうだろう。
僕を見た時も、一瞬誰か分からなかったようだし…もう何人か覚えていないクラスメイトとかいるんじゃないかな。

エリスさんの所のドールちゃんのことは…エリスさんの力が働いている限り、忘れることはないだろうけど。

僕はその場に寝転んだ。
次からは薬を渡す時、僕からも注意換気をしよう。
薬の飲み方は必ず守ってね、と。

ガチャリ…。

屋上の扉が開く音がした。
僕は体を起こす。

「さて、次の患者さんが来ましたよ、と」

僕は患者さんの姿を見て、笑いながら言った。




「―――ようこそ、傷心内科へ」