次の日、私はパチリと目を覚ました。
閉められたカーテンのすきまから太陽の光が入ってくる。
チュンチュン、と雀の鳴き声が聞こえた。
いつの間に寝ちゃったんだろう…?
確か昨日はあのあと…優と一緒にお風呂に入って、お母さんが用意したというお揃いのパジャマに着替えた後、夕御飯を食べて…部屋に向かった。
それからずっと優とお喋りしていて…それで…少しずつ眠くなって、結局……。

「そうだ、私寝落ちしたんだ…!」
一気に目が覚めていく!優をほったらかしにして寝ちゃうなんて…!
私は直ぐ様 優に謝ろうと体を起こした。

「ごめん優、私昨日―――え?」

ベッドの上に、優がいない。
いや、それどころか部屋のどこにも優の姿がない―――――。

「ゆ…ゆう?」

まさか、昨日のこと全て夢だった――?
そんな考えに背筋がゾクリと震える。
優の手の温かさが、遠い昔のことみたいだ。

「そ、そんな……」

うろたえながらも私は必死に優がいた痕跡を探す。ふと、部屋の中央に置かれた、茶色の小さなテーブルを見た。

「あ、あれは…!」

優が昨日飲んでいたミルクティーのペットボトルだ!
私が買ったカフェオレのペットボトルも、確かに残っている。
と、いうことは……優はちゃんと存在している…?

「やっぱり夢じゃなかったんだ…!でも、それじゃ優はどこに―――」

その時、トントンッと部屋をノックする音が聞こえた。

「優衣ちゃん、ご飯ができたよ。起きて~」
「優!」

転びそうになりながら、慌ててドアを開く!
そこには、白いエプロンを着けた優が、ニコニコ笑いながら立っていた。

「あ、起きてたんだね」
「ゆ、優…心配したよ、何してたの?」
「ごめんなさい…おば様がいつもより早くお仕事に行ってしまわれたから、さっきまで私が朝ごはんを作ってたの」
「そ、そっか……って優、ご飯作れるの…?」
「うふふ…どうでしょう~?…さぁ、用意してお顔を洗ったらリビングにきて?」

一緒に食べましょう。
楽しそうに笑う優に、私はもう何も言えなくなった。


***

言われた通りに制服に着替えて顔を洗う。そしてリビングに向かうと…良い匂いが鼻をくすぐった。

「…わ…スゴい…!」

目に飛び込んできたのはホカホカの白いご飯とお味噌汁…それに、あれは鮭の塩焼きだろうか?
どれもスゴく美味しそう…!

「食べよ、優衣ちゃん」

お口に合えば良いんだけど…。優がエプロンを脱ぎながら不安そうに言った。
私はその言葉より、優の姿に注目した。

「優…それ……」
「あ、うん…えへへ…似合うかな?」
「スゴく似合ってる、けど…うちの学校の制服なんて持ってたの…?」

見慣れた白のシャツと黒地のブレザー。胸元の赤いリボンはチェックプリント…これはうちの学校の特有の人気のデザインだ。
同じ色とデザインのスカートも適度に短くはきこなしている。
靴下は黒のニーソックス…これに合わせるのはきっと学校指定の黒いローファーだろう。
絶対似合う。

「ふふ、嬉しいな。これはさっきエリス様から受け取ったのよ」
「エリスさんが…そっか。…その、優は、うちの学校に転校…してくるんだよね?…そういう設定だって…」
「えぇ、今日から優衣ちゃんと一緒にお勉強するの、とても楽しみ!」
「…そ、そっか……」
「…?優衣ちゃん?どうしたの?」

優が私の顔を覗きこんでくる。
…どうしよう、言うべきだろうか。あの事を。

私が受けてるイジメのこと……優に……。

どうせ学校に行けば、私の受けている仕打ちはすぐに優にバレるだろう。だけど、こんなに学校を楽しみにしてる優に…そんな汚い人間の世界を知らせて良いのだろうか。

私が悩んでいると、優は意外な言葉を呟く。

「…やっぱり私じゃ、頼りないよね…」