友達ドール


店を出て駅に向かい、帰りの電車に乗る。
冷房の涼しさと揺りかごのように揺れる電車の中、必死に睡魔と戦った。

棚野駅に着く。

今日は朝から小雨が降っているけど…傘をさすほどではない。
花火大会も、予定通り行われるだろう。

紫乃は…やはりアタシを待つのだろうか。

………。

アパートに着く。

部屋に入り、ゆっくりとした動作で居間に向かう。
紫織に帰ってきたとメッセージを送らなければいけない。
気だるい体を無理矢理動かして、スマホを鞄から取り出す。

メッセージを送信して、その場にごろんと寝転んだ。

スマホを見た時、まだ時間は午後一時を過ぎたくらいだった。
アタシは目を瞑る。
頭の中に公園でたたずむ紫乃が見えた。
紫乃は白地にピンクと青のアジサイが咲いた浴衣を着ていた。

それを見て、これは中学の時の紫乃だと気づいた。

アタシに気づくと、紫乃はパタパタと小走りに駆け寄ってくる。
ツインテールに結ばれた髪は、アタシが小学生の頃に作ったシュシュで飾られていた。

懐かしい……。

ほんの何年か前の姿なのに、遠い昔のことのようだった。

―――でも、ごめんね紫乃。


アタシは目を開く。

もうあの頃みたいに、花火大会には一緒に行けない。

ううん、花火大会だけじゃない。

アタシといたら、紫乃はまた悲しい思いをするかもしれないんだ。
再会した日の紫乃の言葉…学校で何かあったのかと聞いた時、紫乃は「ううん、大丈夫」と答えた。

つまり、紫乃は何も…嫌がらせも何もされていないということだ。

アタシが考えた通り、クラスメイトはアタシだけを優衣イジメの敵として見てるから、紫乃には手を出してないんだ。

だけどもし…アタシといるところを見られたらどうだろう……。

アタシは首を振った。

イジメられている紫乃は、もう見たくない。

笑っている紫乃だけを見ていたい。

だから会っちゃいけない。

そう決意して、スマホの画面に出る時刻を見た。
まだ二十分も経っていない…。
時間が進むのが遅く感じる。
いっそのこと、明日の朝まで眠ってしまえれば…。
だけど眠れない。


「―――そうだ」


アタシは呟く。


薬の量を…増やせばどうだろう…?
アタシは『おくすり』と書かれた袋を手に取った。

一回一錠…。

用法、用量は必ずお守り下さい…。

それを見ないふりをして、アタシはカプセルを二錠、睡眠薬を二錠ずつ…。

一気に、口に含んで飲み込んだ。

麦茶をコップに入れて飲み、薬を流し込む。

ゴクリ。

「…ふぅ…」

アタシは再び居間に寝転ぶ。
目を瞑り、いずれ来るであろう睡魔を受け入れる準備をする。



ごめん、ごめんね紫乃。



アタシの意識は、次第にボンヤリとしていった。