「…紫乃…」
「久しぶり…だね」

元気だった?
そうアタシに聞いた紫乃は以前より痩せていて、力なく笑う姿はとても元気そうには見えない。

「…学校で、何かあったの」

まさかイジメにあっているのだろうか。
アタシは登校拒否をしてからというもの、紫乃が学校でどう過ごしていたのかを知らずに今日まで過ごしてきた。
しかし紫乃は小さく首を振った。

「ううん、大丈夫…それより、ね?…理香子と話したいことが沢山あるの…!」

紫乃の目に光が灯る。
アタシはそれを見ないように視線をそらした。

「ねぇ、理香子―――」

紫乃が此方へと近づいてくる―――。
電車のドアが閉まろうとした瞬間。

「理香子ちゃん、乗って!」
「っ―――え!?」

紫織がアタシの手を取り、電車に駆け込んだ。
紫乃もすぐに駆け寄ってくるが、プシューと音をならしてドアは閉まった。

「り、理香子―――!」

電車の向こうで紫乃が叫ぶ。

「花火大会!!公園で―――!!」

電車が走りだし最後の言葉は聞こえなかった。

だけど紫乃が何と言っていたか、アタシには分かった。

花火大会、公園で、待ってる……。
花火大会とは多分、棚野花火大会のことだ。
その日に、あの公園で待ってる…紫乃はそう言っていた筈だ。

「…ごめんね理香子ちゃん…何だかあの女の子と話したくなさそうだったから…つい…」

紫織がシュン…と肩を落とす。
アタシは紫織の頭を撫でて「いや…助かった」と呟いていた。

まさか、あんな所で紫乃と会うなんて。

電車が棚野に着くまで、アタシはずっとうつむいて、唇を噛み締めていた。
口の中に、血の味が広がる。

その日は、睡眠薬を飲んだのに眠れなかった。



***


花火大会の日、当日が来た。

紫乃に会ってから眠れない日々は続いた。
また電車に乗っている間に睡眠を取る日々。
ちゃんと薬は飲んでいたのに…。
紫乃のことで頭が冴えてしまったのだろうか。

「あの、これ頼んでないんですけど…」
「も、申し訳ございませんでした…!」

また、注文されたメニューを間違えた。
寝不足で頭がボーッとして上手く体が動かない…。

今日の喫茶店でもそうだが、昨日のお弁当屋さんでもレジ打ちのミスや、盛り付けのミス…調理中のヤケドなどミスを連発してしまった。

「紺野さん、今日は私達で回すから、もう帰って休んだ方がいいわ…」

光さんが苦笑してそう言った。
紫織も付き添うと言ってくれたけど、一人になりたいと言ったら渋々引き下がってくれた。

「アパートに着いたらメッセージ送ってね…心配だもん…」

目を潤ませる紫織の頭を撫でながら頷いた。