友達ドール

翌日。

アタシ達は午前十時から午後七時までお弁当屋さんで働いた。

気前の良いおじさん店長が、売れ残りで良ければと惣菜をいくつか持たせてくれて、今日の夕飯はそれをおかずにご飯を食べた。

お弁当屋さんは火曜日と水曜日と金曜日。

「明日でも惣菜の感想を聞かせてね」と笑う店長の顔を思い出しながら、紫織と今日の仕事内容を確認しあった。

お弁当屋さんの仕事はレジとお弁当の簡単な調理が主で、喫茶店よりは覚えることが少なくて助かっている。

「そろそろ寝ようか」

スマホで時間を見ると、もう夜の十時になろうとしていた。
明日も早く起きて用意をしないといけない。
布団を敷く。

「理香子ちゃん…今日は眠れそう?」

紫織が心配そうに言った。
アタシはタオルケットを出しながら「さぁ…」とだけ呟いた。

ここのところ、あまり睡眠をとれていない。
馴れないバイトの掛け持ちで、体は疲れている筈なのに、眠れない。

眠れないから考えてしまう。
パパのこと…紫乃のこと。
考えてはまた眠れず、朝を迎える。

バイト先に向かう途中の電車内で、紫織の肩を借りて少し寝ているが…それではいつまで体がもつか分からない。

「…あの病院、行ってみない?」

紫織がボソッと呟いた。

「病院…?」
「ほら、エリス様のお店で出会った男の人…えぇっとぉ…」
「…あぁ…」

何て名前だったか…。
アタシはあの時持っていた鞄の中から、一枚の名刺を取り出した。

「…傷心内科…院長、篠村 正…ね」
「そうそう、篠村さん!」

傷ついた心を治します。そう書かれた名刺の裏を何気なく見てみた。

「―――なに、コレ…」
「え、なぁに?」

紫織がアタシの背中越しに覗きこんでくる。
名刺の裏には『行き方』と書かれた手書きの文字の下に、続けてこう書かれていた。

『一、電車に乗る』
『二、終点まで降りない』
『三、近くの病院へ行く』
『四、その屋上にある』

なんというか…説明が全体的にざっくりとしすぎている。
そもそも最初にどこ行きの電車に乗ればいいのか不明だ。

「ここに行けって?」
「うぅん…エリス様の知り合いなら、この人も何かしら特別な力があると思うんだけどなぁ…」

紫織の言葉にアタシはあることを思い出した。
エリスさんの言葉。
人の…心を読める人だって、言われてた。
そして確かにあの人は…篠村さんは言い当てた。
パパの逮捕も…紫乃との、別れも。

「他のお医者さんに行くより良いと思うの…それに―――」

紫織が名刺の裏のすみに小さく書かれた文字を指差した。

診察料金、一律 五百円。

「安いし」
「それが不安なんだけど…」
「ねっ、試しに言ってみない?」

紫織がアタシの腕にすりよってきた。

「紫織もついていくから、ねっ?」
「…別に、良いけど…」
「よぉーし、じゃあバイトがお休みの…明後日の木曜日に行こう!」

はしゃぐ紫織を横目に名刺を鞄にしまう。
傷心内科…どんなところなんだろう。

…色々と不安要素があるが、紫織がいるなら大丈夫な気がしてきた。