友達ドール

八月十日の月曜日。
喫茶店のバイトの日がやってきた。

「今日から一緒に働く紺野 理香子さんと、川井 紫織さんです」

「よろしく、お願いします」
「よろしくお願いしま~す!」

紫織と二人、頭を下げる。
紫織の名字『川井』とは、あの友達ドール店の店長エリスさんが事前に決めていたものだった。
名字の理由は『可愛い』からもじって『川井』。
安直だと思ったけれど、紫織が喜んでいたのでまぁいいかと思う。

マスターである壮年のおじさんが最後に「皆、二人と仲良くして下さいね」と笑った。
店のスタッフさん達が拍手でアタシ達を歓迎してくれる。
和やかにアタシ達の紹介が終わり、そのまま今日の朝礼へと話は移った。

朝十時の開店が近づき、それぞれが持ち場に向かい始める。
アタシ達はどうすればいいだろう…紫織と顔を見合わせる。

―――その時。

「紺野さんに川井さん!」

一人の綺麗な女の人が声をかけてきた。

「私は光。マスターの娘なの、よろしくね」
「あ…紺野です、此方こそよろしくお願いします」
「川井です、よろしくお願いします!」

光さんはアタシ達を見るとにこりとほほ笑んだ。

「今日は二人供、私についてまわってね!仕事内容はそのたび教えるわ」
『はい』
「いい返事ね~!それじゃあ、慣れるまで大変だけど、頑張りましょう!」

光さんの言葉にアタシと紫織は再度頷いたのだった。


***


「はぁ~疲れたねぇ…」
「…だね…」

紫織とヘトヘトになりながら、駅のホームで帰りの電車を待つ。

バイトが終わったのは午後三時だった。
喫茶店では月曜日、土曜日、日曜日の三日間…朝十時からこの時間まで働くことになる。

「覚えること沢山だったねぇ…」

紫織がスカートのポケットからメモ用紙を取り出して読み直していた。
新品のメモ用紙は今日一日だけでかなりのページを消費している。

「お客さんも多かったしね…」
「そうそう!もう途中から何が何だか…隣に理香子ちゃんがいなかったら紫織、どうすればいいか分かんなくて泣いちゃってたかも」
「そうだね…」

それはアタシだってそうだった。
隣に紫織がいたから、頑張れた。

ホームに棚野町行きの電車が来る。
乗り込み、空いている席に座った。
紫織が思い出したかのように「あっ、でも」と声をだした。

「休憩の時に食べたまかないのサンドイッチは美味しかった~!あれと理香子ちゃんがいれば紫織頑張れそうだよ~」

その言葉にアタシはサンドイッチと同等かと突っ込みたくなった。
けれど、確かにマスターの作ったサンドイッチはどの具材も具沢山で美味しかったなと思い出す。

二人分の昼食代が浮き、それも嬉しかった。

電車が心地よく揺れる。
まどろみを感じながらアタシは今日の仕事内容を頭の中で反復していた。