無事に二つの面接を終えたのは八月五日の水曜日。
アタシと紫織は、次の週となる十日からバイトに入ることとなった。

電車で二十分圏内の喫茶店は週三で。
電車で十五分圏内のお弁当屋さんは週二で働く。

時給はどちらも八百五十円。
できればもう少し欲しかったけど、高校生の働く範囲では妥当な給料だとも思う。

「どっちの店長さんもいい人だったね」

紫織の言葉にアタシは頷く。
面接はどちらのバイト先も、時間別々に受けたのだが、アタシと紫織が友達だと分かると、「なるべく同じシフトで考える」と言ってくれたのだ。

その代わり喫茶店の方は一番忙しい昼時を任せられることになったが…紫織と二人なら頑張れる気がした。

電車が棚野町に着く。

忙しく鳴くセミの声に、頭がクラクラした。


***

夏の暑さで日に日にボロさを増していくアパートに帰ってきた。
アタシと紫織の手には先程近くのスーパーで買った買い物袋。
今日の晩ご飯の材料が入っている。

「じゃあ、ちゃちゃっと作っちゃうね~」
「よろしく」
「はぁ~い、了解です」

紫織が左手でゆるりと敬礼をする。
紫織が料理上手だということは最近知った。
レパートリーも豊富で、低コストで作る節約料理も美味しかった。
アタシは料理下手なので、そこらへんとても助かっている。

手を洗い、材料を取り出す紫織。
今日は安く手に入ったキャベツと豚肉…そしてモヤシのポン酢炒めらしい。

ご飯はお爺ちゃんが送ってくれたお米が残っているので、それを炊く。

トントン、と軽快なリズムを奏でながらキャベツを切っていく紫織。
アタシはその横でお米をとぐ。

こうしていると、少しだけパパと過ごしていた頃を思い出す。
アタシがお米をといで、その横でパパがおかずを作る……。
パパは今頃、どうしているだろう。
ちゃんとご飯を食べているだろうか。

「理香子ちゃ~ん?お米、もうとぐの大丈夫だと思うよ?」

紫織の声で我に帰った。

「…あ、うん…」

水の調整をして、釜の水気を拭き取り、炊飯器にセットして炊飯ボタンを押した。
フライパンの上では、切られた野菜と肉がジューッと音をたてて炒められていた。

「もうすぐできるよ~」

紫織の声にアタシは戸棚から二人分の皿を出した。

いつものようにご飯を食べ終えて、食器を片付けて、お風呂に入って髪を乾かし、布団に入り一日を終える。

それなのに、なぜか今日はよく眠れなかった。