部屋に入ると、私はすぐに優に詰め寄った。
「ね、ねぇ優!さっきのってどういうこと?お母さんまるで優のこと、ずっと前から知ってるみたいに話してて、私達のことも六年間ずっと一緒に遊んでた親友だとかって……!」

勿論、私にそんな記憶はない。
小学校の友達なんて、もう顔も覚えてない。ましてや優のような可愛い子がいたら、絶対忘れない筈だ。
あの目立つエリスさんがお母さんだというなら尚更。
私の様子に苦笑して、優はこう言った。

「これがエリス様のお力だよ」
「エリスさんの…?」

私は目を丸くした。

「エリス様は不思議な力を二つ持っているの。一つは私達…友達ドールを作る能力。もう一つは――他者の記憶を塗り替える能力なの」

優はコンビニで買ったミルクティーを取り出すと、キャップを開けてごくりと飲んだ。
記憶を、塗り替える能力……。

「それじゃあお母さんは、本当に優のこと…」
「うん、昔ご近所にいたエリスという人間の娘…と思ってるわ。それもお互い仲の良い娘がいる同士、家族ぐるみでかなり親しくしていたご家族だと」
「そう、なんだ…」
「私と優衣ちゃんは小学校の一年生から、六年生になるまでずっと一緒の親友。そのあと親の都合で私はお引っ越ししたけど、手紙や電話で優衣ちゃんや優衣ちゃんのご家族と繋がってた。そして高校生になり、二年生になったとき、私が優衣ちゃんの学校に転校することが決まって…それならうちで面倒を見ると優衣ちゃんのお母さんが言ってくれたから、私はご厚意に甘えて今日この町にきたの」
「…そういう、設定?」
「そう、設定」

でもそれを、優衣ちゃんのお母さんは真実だと認識しているし、その記憶もある。

「私と優衣ちゃんは正真正銘の幼馴染みで、親公認の大親友なんだよ」

優がにこりとほほ笑んだ。

「スゴいよね、エリス様」
「スゴすぎるよ…エリスさんの能力……」

目の当たりにしなければ到底信じられない。
いや、まだどこかで疑ってるかもしれない。
それでも。

―――嬉しい!


これでずっと優と一緒にいられる!もう、家でも一人ぼっちじゃないんだ…!
お母さんが仕事に行っても、側には優がいてくれるんだ…!

私は歓喜に満ち溢れる!

「優、これからよろしくね!」

優の両手を私の両手でそっと包み込む。柔らかくて温かい。安心する。

「うん、私の方こそよろしくね」
「うん…!うん…!」

この時は優と暮らせることが嬉しすぎて、忘れていた。


あの地獄のことを。