友達ドールの店を出てから、二十分程。
勘を頼りに見知らぬ路地を歩き回り、ようやく知っている道に出る。

自宅となるボロアパートに着いたのは午後四時を少し過ぎた頃だった。

木製の階段を上がり、二階にある部屋にたどり着く。

「狭いけど…上がって」
「お邪魔しまーす」

紫織を居間に案内して、ちゃぶ台を挟んで向かい合いながら座った。
アタシは鞄に入れていた無料求人誌をちゃぶ台の上に広げる。
紫織がその内の一冊を手に取った。

「この中から、バイトを見つけるんだよね」

紫織がパラパラとページをめくっていく。
アタシも求人誌を手にする。
何十分かついやして全ての求人誌を二人で見たが、内容はどれも同じような物だった。

「…いいの、あった?」

アタシの言葉に、紫織はうーんと首を捻った。

「紫織はねぇ…コレと…」

紫織が一冊の求人誌をめくり、四ページ左上に記載されたバイトを指差した。

「あとはコレかなぁ」

そして続けざまに同ページの右下に記載されたバイトも指差した。

……喫茶店とお弁当屋さん…。
どちらも食べ物関連の店だった。

「何で、この二つ?」

アタシが聞くと紫織は「え~、だって」と小首をかしげた。

「まず喫茶店とかの飲食店だと、まかないとか出るから一食分の食費が浮くでしょ?お弁当屋さんはほら、売れ残りのお弁当とか貰えるかもしれないから、それはそれで一食分が浮くしアリかな~って」
「!……確かに……」
「でしょでしょ?食費が浮けば、そのぶん節約にもなるもんね~」

…そうか、そんな考え方があったんだ。
アタシは正直、自給の高い所ばかり選ぼうとしていたから…紫織の選び方は新鮮に感じた。

「…じゃあ、そことそこに行こう」
「は~い!電話かけちゃう?」
「うん」

アタシはスマホを手に取った。


***


「…はい、それでは失礼します」

相手が通話を切ったのを確認してからスマホを耳から離す。

「どうだった?理香子ちゃん」

紫織が冷蔵庫の中の麦茶を二人分のコップに注ぎながら言った。

「喫茶店は明日、お弁当屋さんは三日後に面接決定」
「じゃあ、次は紫織も電話かけちゃうね」
「うん」

紫織が目立つピンクのスマホをブランド物の鞄から取り出す。
その鞄も、今日エリスさんに貰っていた物だった。
通帳や印鑑、保険証にいたるまで…必要な物は全てそこに入れてあるということだ。

「あっ、求人誌を見てご連絡したんですけど―――」

紫織が電話をかけているのを見ながら、彼女が持ってきてくれていた麦茶を飲む。
緊張していたのか喉がカラカラだった。
一気に飲み干し、小さく息を吐く。

バイト、決まるといいな…。
できたら紫織と二人、同じ所で働いてみたい。
そんなことを考えながらしばしボーッとする。

「はい、失礼しま~す…は~い!」

紫織がアタシを笑顔で振り返る。

「同じ日に面接決まりました~」

やったぁ、と無邪気に喜ぶ紫織に、アタシはほほ笑んだ。