「―――それでは理香子様。ドールについてのご説明は以上ですわ」
「はい…」
エリスさんから教えてもらったドールの特徴。
それらをしっかり頭に叩き込んだ。
アタシはエリスさんに背を向けて、まだ後ろにいるドールに向き直った。
「…じゃあ…行くよ、紫織」
「うん、理香子ちゃん」
紫織…と名づけたドールの手を、握ろうとして一瞬迷った。
紫乃とも、手を繋いだのは小学校の頃までだ。
少し…いや、かなり気恥ずかしい。
アタシがやっぱりやめようとした時、紫織が手を差し出した。
「手、繋ごう理香子ちゃん」
「!」
「…ダメ?…」
アタシより少し背の低い紫織が、アタシを上目使いの涙目で見てくる。
―――ヤバい。
一瞬可愛いとか思ってしまった。
相手は同じ女なのに…さすがは『甘えん坊』な性格なだけある。
守って、あげたくなる。
言うことを、全部聞いてあげたくなる。
アタシはギュッとその手を握った。
…繋いだ手から、温かさが伝わった。
紫織と顔を見合わせてほほ笑み合う。
そうして店を出ようとした時、店の奥から声がした。
「エリスさん、美味しい紅茶をごちそうさま」
「あら、先生…もうお帰りですのね」
エリスさんが「何もお構い出来ず、申し訳ありませんでした」と笑った。
「いやいや…充分リラックスできましたよ」
先生と呼ばれた男の人もヘラヘラと笑う。
髪の毛は癖毛なのかモジャモジャした黒。
優しげな目元には黒ぶちのメガネがかけられており、白衣を羽織っている。
…どこかの病院の先生なのだろうか。
「おや?」
男の人と目が合う。
「君は…エリスさんとこのお客さんかい?」
「そうですのよ、理香子様とおっしゃるの」
「そうかい…ふむ……」
男の人が、アタシをジロジロと見てくる。
見知らぬ男の人から見られても、あまりいい気分はしない。
アタシが「何ですか」と警戒心むき出しで問いかけると、男の人はポケットに手を入れた。
アタシが身構えると、男の人は一枚の紙を取り出し、アタシに見せた。
これは名刺…?
紙にはこう書かれている。
『傷心内科…心の傷を治します』
傷心内科…?
心の傷を治す…?
うさんくさいと思いながらも、貰った名刺は一応鞄の中に入れた。
「君は、今…心に傷を負っているね」
「…え…?」
「親友との決別に父親の逮捕…悲しいね…」
「―――!な、んでそれを……?」
アタシの驚いた顔に、男の人が困ったような笑みを浮かべた。
「篠村先生は、人のお心をお読みになれる能力を持っていらっしゃるの」
エリスさんが代表して教えてくれる。
人の心を…読む、能力…。
にわかには信じられない話だけれど…今ならそれを受け入れられる気がした。
友達ドールの存在も、紫乃やパパのことを言い当てたことも……。
ここで体験したこと、全てが証拠だ。
「もしよければ、僕の診察を受けにおいで…そこに行くための方法は、名刺にも書いているから―――まぁ、気が向いたらね」
男の人…篠村先生はそう言って、エリスさんに再度お礼を言いつつ、手を振って店を出た。
「あ、アタシ達も帰ります…それじゃあ」
「エリス様、バイバイ!」
「お二人供、お元気で」
アタシと紫織が追いかけるように外に出ると、もう篠村先生の姿はなかった。



