三十分程経っただろうか。
アタシはのそのそと行動を開始した。
居間に行き、テレビ台の中にあった自分名義の通帳を開く。

…預金残高は三十五万円程…。

これでは、足りない。
毎月の生活費を切り詰めても、学校をやめても近々この町を出なくちゃいけなくなる。

……どうする?

正直、紫乃が嫌がらせのターゲットになる確率は低い…それならばもうこの町にも未練はない…。

アタシがこの町にいない方が、紫乃は……。


―――本当に?

アタシがいなくなったとたん紫乃がターゲットになる可能性だって、あるじゃないか。

まだ、ダメだ…あと少し、せめて…。


せめて、紫乃に新しい友達ができるのを見届けるまでは、この町を離れることはできない。

アタシは部屋に戻り、黒いVネックと白のスキニーパンツを手に取り着替える。

バイトを探さないといけない―――。

アタシは髪を整えて、靴を履き、外へと飛び出した。


***


あれからコンビニや本屋に向かい、いくつかの無料求人誌を取ってきた。
帰路につきながらその一つを読む。

接客…清掃…皿洗い…コンビニ…。

…他にも沢山ありすぎて、何を選べばいいか全く分からない…。

こんな時、友達がいれば…相談にのってくれるのだろうか。

例えば紫乃なら―――。

そこまで考えて首を振る。
もう紫乃とは会わないって決めたんだ。
あれから一ヶ月の間は、ひっきりなしに連絡やメッセージが届いていたけれど、それも今ではスマホは着信拒否しているし、メッセージアプリはブロックしている。

完全な拒絶だ。

アタシを酷い奴だと思えばいい。
それで紫乃が、アタシへの情を捨てて新しい友達を作れたのなら…その方がいい。
あの子に新しい友達が作れるならば…優衣達の仲間になってアタシを咎めてもいい。

むしろそっちの方がてっとり早いかもしれない。

友達を作るのは…難しいから。

目を瞑って考える。

アタシにも、新しい友達はできるだろうか。
例えばそう…紫乃のような―――。

放っておけなくなるような、そんな子と…。

そうすればきっと忘れられる。
紫乃と別れた時の胸の痛みも、パパの逮捕の…悲しみも。

目を開く。

「あれ…?」

気づけば、見知らぬ場所に立っていた。

どこかで道を間違えた―――?

アタシは来た道を戻ろうとして……目前に店があることに気づいた。


淡いミントグリーンの可愛い店…。

―――……。


アタシは吸い寄せられるように、その店のドアを開いた。