季節は巡って、夏休みに入った。
夏休みの宿題が家のポストにねじ込まれている。
きっとクラスメイトの誰かだろう。
先生にこれを持っていってくれと頼まれたけど、アタシと会いたくないからポストに突っ込んで帰った。
大方そんなところだろう。
アタシはボロアパートの年期の入ったポストからそれを力いっぱい引っ張り出した。
「紺野さん…のご家族の方、ですか」
「はい…?」
声をかけられたのはその時だ。
振り向いた瞬間、ギョッとした。
そこにいたのは怖い顔をした男の人数名。
そのうちの一人が「我々はこういう者です」とアタシに警察手帳を見せる。
―――警察が、なぜうちに?
「理香子ー?どうした…って…」
「紺野 義郎さん…ですね?」
「は…い、そうですが…私に何か…?」
同じく警察手帳を見せられたパパが、不思議そうに首をかしげた。
「高野 英二さんをご存知ですね?」
警察の言葉にパパは「はい…前の職場の知り合いです…」と答えた。
警察の人達が何かを話し合う。
奥にいた若い警察が、アタシに近づき真剣な顔でこう言った。
「ごめんね、君は部屋にいてくれるかな…」
アタシはパパを見る。
パパは「大丈夫だから」と頷いた。
アタシは家に戻りドアを閉めた。
薄いドア越しに、パパ達がどこかへ移動するような足音が聞こえた。
***
―――あれから一時間が経つ。
ふと、スマホが鳴った。
発信者は…パパ。
アタシはすぐに通話を開始させた。
「パパっ!?大丈夫!?」
『…理香子…っ…すまない…』
「―――え?」
パパは泣いているようだった。
「ど…どうしたの…警察の人は…?」
『パパは…とんでもないことをしてしまった…』
その言葉を皮切りにパパはことの成り行きを語ってくれた。
清掃のアルバイトをしていた頃の話だ。
前に働いていた会社の社員…高野 英二さんと偶然にも再会したパパは、互いの近況を報告しあったという。
生活費などのお金に困っていたパパは高野さんに相談をした。
いい仕事を知らないかと。
そこである仕事を紹介される。
それは指定された場所まで荷物を運び、そこで待つ人に荷物を渡す…という仕事。
アタシは記憶を遡る。
去年…パパが夜な夜な家を出てやっていた仕事が、まさか犯罪だったなんて…。
『荷物の中身は教えてもらえなかった…嫌な予感はしていたよ…けれど高い報酬に、パパは負けてしまったんだ…』
その荷物の中身こそが…危険薬物…大麻の粉だったらしい。
パパは大麻の運び屋として利用されたのだ。
つい先日、その仕事を紹介した高野という人も運び屋の一人として捕まったらしい。
その人の口からパパの名前も出てきたため、警察がやって来た。
『パパは今から刑務所に行く…お前はどうする…?』
「…どうする…って…」
『オヤジ…お爺ちゃんには今さっき警察の人が電話してくれてな…理香子の面倒はいつでも見てくれると言ってくれたらしい…』
「アタシ…引っ越すの…?」
『…それが嫌なら、銀行にお前の分のお金を預けているから…それを切り崩して使ってくれ…』
通帳は居間のテレビ台の中にあるから。
それじゃあな…パパはもう行かないと…体に気をつけてな…すまない。
それを最後に、通話は途切れた。
去年の今頃―――宝くじが当たった、新しい仕事場も貰えたと喜ぶパパを思い出す。
奇跡の連鎖が続くなら、不幸の連鎖も続くのだと、アタシは今になって気づいた。
紫乃と友達をやめてから数ヵ月で、パパが逮捕されるなんて―――…。
もう涙も出てこなかった。
夏休みの宿題が家のポストにねじ込まれている。
きっとクラスメイトの誰かだろう。
先生にこれを持っていってくれと頼まれたけど、アタシと会いたくないからポストに突っ込んで帰った。
大方そんなところだろう。
アタシはボロアパートの年期の入ったポストからそれを力いっぱい引っ張り出した。
「紺野さん…のご家族の方、ですか」
「はい…?」
声をかけられたのはその時だ。
振り向いた瞬間、ギョッとした。
そこにいたのは怖い顔をした男の人数名。
そのうちの一人が「我々はこういう者です」とアタシに警察手帳を見せる。
―――警察が、なぜうちに?
「理香子ー?どうした…って…」
「紺野 義郎さん…ですね?」
「は…い、そうですが…私に何か…?」
同じく警察手帳を見せられたパパが、不思議そうに首をかしげた。
「高野 英二さんをご存知ですね?」
警察の言葉にパパは「はい…前の職場の知り合いです…」と答えた。
警察の人達が何かを話し合う。
奥にいた若い警察が、アタシに近づき真剣な顔でこう言った。
「ごめんね、君は部屋にいてくれるかな…」
アタシはパパを見る。
パパは「大丈夫だから」と頷いた。
アタシは家に戻りドアを閉めた。
薄いドア越しに、パパ達がどこかへ移動するような足音が聞こえた。
***
―――あれから一時間が経つ。
ふと、スマホが鳴った。
発信者は…パパ。
アタシはすぐに通話を開始させた。
「パパっ!?大丈夫!?」
『…理香子…っ…すまない…』
「―――え?」
パパは泣いているようだった。
「ど…どうしたの…警察の人は…?」
『パパは…とんでもないことをしてしまった…』
その言葉を皮切りにパパはことの成り行きを語ってくれた。
清掃のアルバイトをしていた頃の話だ。
前に働いていた会社の社員…高野 英二さんと偶然にも再会したパパは、互いの近況を報告しあったという。
生活費などのお金に困っていたパパは高野さんに相談をした。
いい仕事を知らないかと。
そこである仕事を紹介される。
それは指定された場所まで荷物を運び、そこで待つ人に荷物を渡す…という仕事。
アタシは記憶を遡る。
去年…パパが夜な夜な家を出てやっていた仕事が、まさか犯罪だったなんて…。
『荷物の中身は教えてもらえなかった…嫌な予感はしていたよ…けれど高い報酬に、パパは負けてしまったんだ…』
その荷物の中身こそが…危険薬物…大麻の粉だったらしい。
パパは大麻の運び屋として利用されたのだ。
つい先日、その仕事を紹介した高野という人も運び屋の一人として捕まったらしい。
その人の口からパパの名前も出てきたため、警察がやって来た。
『パパは今から刑務所に行く…お前はどうする…?』
「…どうする…って…」
『オヤジ…お爺ちゃんには今さっき警察の人が電話してくれてな…理香子の面倒はいつでも見てくれると言ってくれたらしい…』
「アタシ…引っ越すの…?」
『…それが嫌なら、銀行にお前の分のお金を預けているから…それを切り崩して使ってくれ…』
通帳は居間のテレビ台の中にあるから。
それじゃあな…パパはもう行かないと…体に気をつけてな…すまない。
それを最後に、通話は途切れた。
去年の今頃―――宝くじが当たった、新しい仕事場も貰えたと喜ぶパパを思い出す。
奇跡の連鎖が続くなら、不幸の連鎖も続くのだと、アタシは今になって気づいた。
紫乃と友達をやめてから数ヵ月で、パパが逮捕されるなんて―――…。
もう涙も出てこなかった。