「…え…あ………」
紫乃を見つめてほほ笑む。
紫乃が口をぱくぱくさせて、何かを言おうとしていた。
「…そ…んな、じょ、冗談……言わないでよ、理香子…」
声が震えている。
開かれた両目からは、今にも涙が出そうだ。
「ねぇ…理香子、何か言って―――え?」
昨日、紫乃がアタシにしたように、今度は紫乃へと手を差し出す。
その上には勿論、リトルの新作香水のボトル。
紫乃がアタシにくれたプレゼント。
アタシにとっては、紫乃から貰った、最後のプレゼント。
「…さよなら、紫乃」
呆然と立ちすくむ紫乃の右手に、ボトルを握らせながら、そう告げた。
そのまま紫乃の横を通り、公園を出る。
紫乃はついてこない。
アタシは歩きながら空を見上げた。
少しずつ滲んでいく視界。
結局、ありがとうって言えなかったな…。
アタシは家への道を走り出した。
今までありがとう紫乃。
大好きだったよ。
たった一人の、アタシの親友―――。
***
それからアタシは家について、学校が終わる時間を待った。
そしてスマホで連絡をとる。
相手はクラスメイト達。
『…何、紺野さん』
『私忙しいんだけどー』
『お前と話すことなんざねぇよ』
『何?優衣や白鳥さんのこと、謝る気にでもなったわけ?』
それぞれが一同にアタシからの電話を嫌悪しているのが伝わる。
―――謝る?まさか。
―――アタシと紫乃がやったことは間違ってなんかない。
だけど、アタシは優衣をイジメていた……そういうことにしといてあげる。
「優衣をイジメていたのはアタシ。理由はウザかったから。悪いとは思ってないし、謝るつもりもない」
それじゃあバイバイ。
一方的に切って、通話が終わる。
それを繰り返す。
全ては紫乃を守るため。
アタシ一人が悪者になるため。
非難されるのは、アタシだけでいい。
アタシだけで、いい。
…何だかとても眠くなってきた。
朝から敷きっぱなしだった、自室の布団の上に寝転がる。
ボーッとする頭で考える。
―――これが、不器用で口下手なアタシにできる、精一杯の守り方。
明日から学校に行くつもりはない。
もしそこで、アタシが嫌みを言われたり無視されたり、嫌がらせを受けたりする所を紫乃が見たら……きっとあの子は、アタシを庇おうとする筈だから。
そうしたら、紫乃と友達をやめた意味がない。
さっきの電話も意味がない。
あくまでも優衣をイジメてたのはアタシ一人。
そう思ってもらえなければ意味がない。
そうすれば紫乃に攻撃が向かうことはない。
勿論それが、上手くいくかは分からないけれど…。
その可能性にかけるしかなかった。
「紫乃…」
ポツリと呟いた言葉は、まどろみの中に消えていった。