友達ドール


―――私は、何をしているんだろう。

紫乃を守るどころか、怒りに任せて紫乃を裏切るマネをするなんて……。

紫乃に見えないように下を向き、ギュッと唇を噛み締める。
ほのかに鉄の味がした。

「理香子…?大丈夫…?」

紫乃がアタシの顔を覗きこもうとする。
それに気づいたアタシは、クルリと紫乃に背を向けた。

―――ごめん、紫乃。

その言葉が出なかった。
たった五文字の言葉が。

アタシは「帰る」とだけ言って、再び歩きだした。
少しして紫乃も追いかけてくるのが気配と足音で分かった。


***

学校を出て二人、無言のまま歩き続ける。
アタシが前を行き、紫乃がその後ろを数歩離れてついてくる。
何か話すべきだろうか。

考えてるうちに、公園に着いた。

「あのね、理香子……」

紫乃がアタシに声をかける。
ゆっくり振り返ると、紫乃がアタシに向かって手を差し出していた。
その手の上には…小さな香水のボトル。

「これ、ね…リトルの新作…手に入ったの」
「…そう」
「それでね…あの」

紫乃がアタシを潤んだ目で見つめた。

「私、もう一つ持ってるから…これは理香子にあげる…お揃い……に、しよ?」

いいかな?とアタシに問いかける紫乃。

アタシが黙っていると、紫乃はその頬に涙をひとすじ流した。
そしてアタシの手に、無理矢理香水のボトルを握らせる。

「ちょっと…紫乃―――」
「お願いっ…受け取って理香子…!」
「いい!いらない―――!」

香水のボトルを紫乃に突き返す。
リトルの香水は安くても五千円以上…こんな高い物は受け取れない。

紫乃は傷ついたような表情をする。
その理由が、アタシには分からなかった。
紫乃は一瞬肩を震わせた後…アタシのスカートのポケットに香水のボトルを入れた。

「!?」
「っ…―――またね」

そのまま走り去る紫乃。
アタシは呆然とそれを見ていた。
スカートのポケット、その中から香水を取り出す。
紫乃がくれたプレゼント…。
これを貰える資格なんて、今のアタシにはないのに―――。

公園を見る。
風に揺られて、ブランコがギィ…と音をたてていた。