「優衣…彼氏がいたんだ…」

紫乃がポツリと呟いた。
それならなぜ、優衣はあの日―――。

「奏太君とも二人で話したり、一緒に抜け出したりいい感じだったし…あの男の人と二股かけたんだよ優衣の奴…!」

紫乃が曲がり角に立ったまま、肩を震わせた。
二股―――。
その言葉がアタシの頭の中をぐるぐると回る。

―――ママもそうだった。

パパの他に男を作り、最終的にはパパと、まだ幼かった一人娘のアタシを捨てて出ていった。

アタシにはその時の記憶がないけれど、パパがそう言っていた。

その話をする度、パパは悲しげな目をしていて…。
大好きなパパを悲しませるママは、アタシの中で悪となっていった。

だから。

『二股』はアタシの中で最も許せない二文字だ。

それを優衣は…アイツは―――。


「許せないよね、彼氏いたのに理香子から奏太君まで取るなんて―――」

紫乃の言葉に、優衣を合コンに誘った時を思い出す。
優衣が彼氏持ちなら、頭数に入れるのは止めようと思っていた。
けれど。

『か、彼氏なんていないよ~!』

優衣は確かにいないと言っていた。

アタシは確かにこの耳で聞いた。

嘘を―――つかれていたんだ。


「悪い子には、お仕置きしなきゃだよね」

紫乃の言葉に、アタシは静かに頷いた。

アタシ達はヒーローなんだから。
悪い二股女には、制裁を加えないと。

アタシは唇の端をニィ…とつり上げた。


***


夏休み明け、新学期。


「おはよう…」

優衣が登校してきた。
教室の皆が一斉に優衣を見る。
優衣はその光景に一瞬たじろいだ。
すぐにクラスメイトは優衣から視線を外して仲間との談笑に戻っていく。
しかし、時々優衣を盗み見ては、どこか可笑しそうにしていた。
自分を見ながらヒソヒソ話し、クスクス笑うクラスメイトの姿に不思議そうになりながら、優衣が自分の席につこうとする。

席につこうとして―――気づいた。


優衣の机に書かれた『二股女』の三文字。

小さく悲鳴をあげて、その場に座り込む優衣。
大きな笑い声をあげるクラスメイト達…。

「え…?これ…な、何のこと…」
「とぼけないでよ優衣」

アタシが近づく。

「…よくも騙してくれたね…」
「…え?今…なんて」
「今日から、覚悟してよ?」

そう言うと、優衣の体が跳び跳ねた。


アタシと紫乃による二股女への制裁は、始まったばかりだ―――。