夏休みが始まって二週間が立つ。
その日は紫乃と二人で朝から遊びに出掛けていた。
六駅も離れた町に行き、美味しいと評判のクレープ屋に並んだ。
アタシはチョコバナナクレープ、紫乃は苺をふんだんに使った苺スペシャルクレープを頼んだ。
紫乃が口の回りに生クリームをつけながら、出来立てのクレープを美味しそうにほおばってたのが印象的だった。
その後は町をぶらついて、ショッピングざんまい。
「理香子、そんなに買うの?」
アタシが両手いっぱいに服を抱えた姿を見て、紫乃が首をかしげた。
いつものアタシなら、なるべくお金を使わないように買いたいものを我慢していたけど…今のアタシは違う。
「悪い?」
鼻歌混じりで紫乃にそう言った。
紫乃は一瞬キョトンとしたけど、すぐに笑顔になった。
「ううん、理香子を見習って、私も今日は買っちゃう!」
「それがいいよ」
パパの宝くじが当たってから、アタシの人生は変わったんだ。
買い物を終えて店を出た先、紫乃が何かを見つけた。
「あっ、リトルの香水だ~」
「ホントだ…こんなとこにお店あったんだ…」
リトルというのは今、女子高生に大人気の香水
ブランドの名前。
アタシと紫乃は顔を見合わせた。
「…買う?」
「買おうよ!記念に!」
そしてアタシ達は、オシャレな店に入ると、五千円の小さなボトルを買ったのだった。
早速二人で香水をつける。
甘い花の香りが鼻をくすぐった。
そんなこともあり、その日は久しぶりに充実感に溢れた日だった。
電車に揺られながら住み慣れた棚野町に戻る。
「今日は楽しかったね~」
「うん」
「また…行こうね」
「うん」
スマホをいじりながら答える。
夏休みに入って、紫乃を遊びに誘ったのはこれが初めてだった。
あの日…パパから宝くじが当たったと連絡があった日。
詳しいことを何も言わないまま公園に紫乃を置いていったことが、何だか気まずく感じた。
日にちだけが過ぎていく。
一人で夏休みを過ごすのは寂しくて、友達と遊びたいと思った。
パパから沢山のお小遣いも貰ったし、どこかでパーッと使いたかった。
高校で友達は何人かできたけど、頭に最初に浮かんだのは紫乃だった。
昨日、勇気を出して誘ってよかった。
電車が止まる。
棚野町に到着し、アタシ達は帰路についていた。
紫乃が前を歩き、その後ろをアタシがのんびりついていく。
紫乃が曲がり角を曲がろうとした時だった。
紫乃が立ち止まる。
「…紫乃…?」
声をかけると、紫乃が曲がり角の向こうを見つめたままこう返してきた。
「…優衣が、男の人と歩いてる…」
「…は?」
優衣が…?
アタシも曲がり角から盗み見た。
チラリと横顔が見えた。
確かに、優衣だ。
隣の男の人は、よく知らない。
それでも二人は仲良さそうに、親しそうに話している……。
アタシの中に、怒りが燃え広がっていった。