友達ドール

翌日。

「お、おはよう理香子…その、昨日は」
「……………」
「り、理香子…?」

優衣が登校してきたことに、勿論気づいていたが、アタシは何も答えない。
ただ無表情でスマホをいじる。
昨日、紫乃と話して優衣を無視することに決まった。

知らなかったとはいえ、アタシの人生をかけた計画を邪魔したんだから、これくらいは許されるだろう。

計画―――お金持ちの人と結婚して、高校の学費を出してもらう…。

それがアタシの考えうる一番の最善策だった。

最低な考えだ。
お金目的で男に近寄るなんて。

だけど、これしか思いつかなかった。

アタシの誕生日は七月の終わり…。
十六歳になってないんじゃバイトもできない。
引っ越しの期限は夏頃…。
自分でお金を工面するには時間が足りない…。

あの合コンに賭けていたのに。

優衣は口をきこうとしないアタシに戸惑いながらも何かを伝えようと―――口を開いた所で先生がやって来た。

「さぁ皆ー席について!授業を始めますよー」

元気なおばさん先生が手を叩きながらそう言った。

アタシがスマホをしまって黒板の方を向くと、優衣はアタシを気にしながら自分の席に向かっていった。




放課後。


授業が終わり、帰り支度をしていた時。

「理香子~帰ろっ!」

教室のドアから顔を覗かせた紫乃がツインテールを揺らしていた。

「あの…理香子」

優衣が再び声をかけてくる。

「紫乃ごめん、少し待ってて」
「あ、日誌?当番なんだね、分かった~」
「…き…昨日は勝手に帰ってごめんなさい、私―――」

日誌を書き終わる。
アタシは席を立った。
優衣への無視は継続している。

「渡してくるから」
「了解~待ってるね」
「うん」

この学校では、日誌は直接先生に手渡しするのがルールだった。
当番がちゃんと書いているか確かめるのと、日誌を無くしたりするのを避けるためらしい。

「り、理香子…」

不安気な優衣の声は、アタシのドアを閉める音にかきけされた。


日誌を渡して職員室から出る。

「!理香子っ…!」

廊下で優衣が待っていた。
アタシは無言のまま紫乃が待つ教室に向かう。
ふと、体がわずかに後ろへ傾く。
振り返ると優衣がアタシの服を掴んでいた。

「ご、ごめんなさい…!紫乃から聞いたの…理香子が奏太君を狙ってたって…」

アタシは何も言わない。

「私、私知らなくて…その、だから怒ってるんだよね…?」

チラリと窓の外を見た。
ガラスに優衣とアタシの姿が映って見える。

「あ…あの、連絡先…奏太君と交換したから、だから私…二人の間を取り持つよ…!改めて奏太君に理香子を紹介するから、だからっ…!」

アタシは大きくため息を吐く。
優衣の体が跳ねて、アタシの服から手を離した。
アタシは優衣に向かって一言。

「そういうの、ウザいよ」


優衣はもう、何も言ってこなかった。