友達ドール

二人がどこに消えたか、なんて分からない。
アタシは紫乃を引き連れて駅前のベンチに腰かけた。

「わ、私、ジュース買ってくるよ…理香子は何がいい?」

紫乃が先程からアタシの顔色をうかがっている。
ご機嫌を取ろうとしてるのだってバレバレだ。

「…コーヒー」
「ブラックだよね…行ってくる」

紫乃が自販機へと走った。
アタシは一人になる。

「…はぁ…」

空を見上げて、ため息を吐いた。

まさか奏太君が優衣みたいな子を選ぶなんて。
選ばれるならアタシか紫乃だと勝手に思っていた。
それで、もし彼が紫乃を選んだのなら、その時は譲ってもらおうと思っていたのに。

―――アタシには、時間がないのだから。

パパの仕事…アルバイトだけではその内限界が見えてくる。
稼ぎでも、生活でも、学費でも…住む所でも。
お金が足りないのだ。

高校の入学式の朝、パパからこう言われた。

「高校は…行けても夏頃までだな。パパは頑張るつもりだけど、最悪の場合…パパの実家に行くことになる…ここからは距離があるし、転校するしかなくなると思う」

パパの実家は、この棚野町よりも田舎で、そのうえ山の中に位置していた。
パパのパパ…アタシのお爺ちゃんは代々農家をしていて、パパはそんな家業を継ぐのが嫌で家を飛び出したと聞いたことがある。
だから『最悪の場合』と表現したのだろう。

アタシはお爺ちゃんが嫌いではない。
山に囲まれた田舎暮らしも、悪くないと思う。

―――だけど。

アタシには気がかりがあった。


「理香子~!はい、コーヒー!」

紫乃が息を切らして戻ってきた。
コーヒーを受けとる。

…………。

「…り、理香子?どうかした?」
「ううん…何でもない、ありがと紫乃」
「ううん!これくらい任せてよ~」

恵まれた胸をとんっと叩いて、紫乃が笑う。
とても無邪気な笑顔。


もしも…アタシが転校したら。


紫乃は……。


この、アタシの親友は。


一人になった時、あの高校で、どう過ごしていくのだろう―――?


「…理香子?」

紫乃が首をかしげる。

「…帰ろっか、紫乃」

アタシはコーヒーの蓋を開けた。
じわり、と苦味が口に広がった。