「紺野 理香子です、よろしくね」

奏太君の隣に陣取ったアタシは手短に自己紹介をした。
まどっこしいのは苦手だけど、計画のためにどうでもいい話題から入ることにする。
私は奏太君の指にはめられた特徴的なリングに視線をやった。

「それ、何かの限定モデル?カッコいい」

リングを指差しながら言った。
奏太君は「あぁ、これ?」とほほ笑む。

「ウロボロスっていって…自分の尻尾を噛みついてわっかを作った蛇のデザインなんだ。もしかして知ってるかな?同じ名前のドラマが放送してるんだけどそれに出てる工藤ってキャラがつけてて―――!」
「へ、へぇ…」
「―――それで、―――が―――で!」
「ご、ごめんなさい…ちょっとお手洗いに…」

知らない内容の情報量についていけない…。
急いでトイレへと駆け込み、スマホでウロボロスというドラマを検索した。

………。

へぇ、不良達の友情を描いたドラマか…。
視聴率も高く、結構人気のドラマみたいだ。
爽やかな奏太君の雰囲気からは想像できない好みだけれど。

ドラマの公式サイトに『限定コラボリング、工藤モデルがついに登場!』とバナーがついている。
バナーをタップしてリングのHPへ。

そこには奏太君がつけていた蛇…ウロボロスのリングが大きく載っていた。

値段を見てギョッとした。

じゅ…十万円……!?

こんな高いものを、その役者が好きだからってポンと買えるなんて……。
やはり奏太君はかなりのお金持ちだ。

何としても…彼と……。

恋人以上の関係にならなきゃ。

スマホを見て数分が経過した。

よし、いくつか記憶した。
これで奏太君の会話についていける―――。
軽く身だしなみを整えて、再び部屋に戻る。
違和感にはすぐ気づいた。


奏太君が、いない―――。

「理香子…」
「紫乃…奏太君トイレ?」
「それが―――」

紫乃がアタシに耳打ちする。


優衣が、奏太君と部屋を出ていった。




「―――はぁ!?」

頭に、血が昇ったのを感じた。

「ご、ごめん…食い止めようとしたんだけど、他の二人に邪魔されて私―――!」

涙目の紫乃。

アタシは呑気に歌を歌う二人の男をキッと睨みつけた。

二人がそれに気づいて目を丸くする。

「行くよ!」

アタシは腹いせに、店のテーブルを蹴飛ばして紫乃の手を取り外に出た。


まさか、優衣に取られるなんて―――!!


アタシの頭の中に『計算外』の三文字がぐるぐる回っていた。