友達ドール

外に出ると、辺りは先程よりも一層暗闇に包まれていた。
ここらへんは学校が密集しているのにも関わらず街灯が少ない。
だから理香子達から掃除を押し付けられた日はいつも、深まる闇に怯えながら一人で帰路についていた。

今までは。
だけど今日は違う。

「優、この先のコンビニ寄ろう」
「うん、行こう。何買おうか?」
「うーん、飲み物と…あとはアイスとか…?」
「それいいね!何のアイスにしようかなぁ~」

提案をあっさりと受け入れられて、ホッと胸を撫で下ろす。
私は普段、寄り道はしないタイプだ。
けれど今日は何か、優と友達らしいことがしたくてたまらなかった。
友達と買い食いするのは憧れの一つでもある。
今日、それが叶ってしまった。

コンビニに到着して飲み物を選ぶ。
店内は私達と、レジのお兄さんの三人だけしかいない。
私はカフェオレを、優はミルクティーを手にとった。
そのままアイスの売り場へ向かう。

「どれにしようかなぁ…迷っちゃうね」

友達ドールも私達人間と同じで、ご飯等から成長に必要な栄養素を摂取するとエリスさんが言っていた。
味覚などの五感もあり、本当に人間と変わらないのだという。
生活に必要なお金は定期的にエリスさんがくれるらしく、その面も心配はいらない。
残る心配は―――――。

「優衣ちゃん、アイス選ばないの?」
「あ、ごめん…!えっと…これにしようかな」
「わぁ、美味しそう!…じゃあ私はこれかな」

お互いに『春限定!』と書かれたアイスを手に取る。
私のはイチゴミルクのソフトクリームで、優のは桜餅味の二個入り大福アイス。

「後で半分こしようね」と優が笑った。

***

「うん、美味しい!」
「頭がキーンってする~」

二人でベンチに座り、アイスを頬張る。
初めて友達と寄り道して買ったアイス。
例えが思い付かない程に美味しかった。

「はぁ、ご馳走様でした」
「美味しかったね、優衣ちゃん」

そろそろ帰ろうかと、優が続けた。
この公園を出て右に曲がれば、数分で私の家がある。
つまり、優とはもうすぐお別れだ。
なぜなら優には、エリスさんが用意したお家があるから。

『彼女の住む場所も手配済みですから、お気になさらず…服も、私が見繕った物をそちらに送りますわね』

再びエリスさんの言葉を思い出す。
でも、優はどこに住むんだろう…聞いたら教えてくれるのかな。

私はベンチから立ち上がり、口を開いた。

「ゆ、優!」
「なぁに、優衣ちゃん」
「優は、その、これからどこに住むの?」
「優衣ちゃんのお家だよ」
「―――え?」

今、優はなんて?私の家…?
思いがけない言葉に、頭が真っ白になる。
優はふふふと笑うと、私の手を優しく引いた。


「帰ろう、優衣ちゃん」



私達のお家へ。