友達ドール

アタシにとって大きな変化が起きたのは、中学校生活、三度目の冬だった。

「今日も寒かったねぇ~」

ふわふわの白いマフラーに顔をうずめながら、紫乃が言った。
結局三年目もクラスは別々になったが、紫乃へのイジメが発覚した後は、こうしてたまに紫乃と帰っている。

「じゃあ、理香子また明日ね」
「うん」

アタシの家に着き、紫乃とはここでお別れ。
アタシに背を向け歩きだす紫乃をしばらく眺めていた。
紫乃の家はここから歩いてあと五分の所にある立派な一軒家。
それに比べ…とアタシは自分の家を見た。
少しボロいこの平屋には、築七十年の歴史が詰まっている。


「ただいま」
「…おかえり、理香子…」
「パパ…?」

家に帰ると、いつも仕事で遅い筈のパパがいた。
アタシが驚いていると、パパは深刻そうな顔で「此方に来なさい…」と呟き居間に座る。
その異様な空気にアタシも顔をこわばらせた。
靴を脱ぎ、パパに続いて居間へと向かう。
ちゃぶ台を挟んでパパと向かい合うように座った。

パパはアタシの顔を見た後、肩を震わせた。
そして悲しそうにこう呟いた。

「落ち着いて、聞いてくれ…」
「パパ……どうしたの?」
「パパは…パパはな…」


今日……パパの仕事先が倒産した……。

もうすぐ…この家には住めなくなる…。


「―――は?」



アタシの頭は真っ白になった。


パパが勤務していた会社は元々小さな会社だった。
それでも人当たりの良い社長と従業員数名、彼らの仕事が丁寧で迅速ということもあって、地元の人達からは愛されていたし、これからも当たり前のように営業をしていくものだと思ってた。

それが、こんなにも簡単に潰れてしまうなんて…。

ぎゅっと口を一文字に引き締める。

「ごめんな…受験で大変な時に、こんな…」
「…アタシは大丈夫、大丈夫だよパパ…」
「ごめんな…ごめん、理香子……!」

パパはそれからしばらく、アタシに謝り続けていた。
いつも大きかったパパの背中が、初めて小さく見えて、アタシは泣きそうになった。

「…パパ、どこか新しい仕事場を見つけるよ…だから、お前は受験に専念しなさい…」

最後にそう言って、パパは自室へと姿を消した。


***


あれから数ヵ月の時が経ち、季節は春。
アタシは紫乃と同じ公立の高校に合格した。
今日はその入学式だ。

パパが見つけた新しい仕事は、大手会社の清掃のアルバイトだった。
勿論それだけじゃ食べていけないし、アタシの高校の学費も払えない。
だからパパはもう一つアルバイトを増やしている。
そのアルバイトがある日は、夜に家を出る事が多くなった。
そちらのアルバイトは中々給料が良いみたいだけど、それでもアタシ達の生活が苦しいのは変わらない。

長年住んでいたあの平屋は引っ越して、更にボロいアパートに住むことになった。

紫乃には、勿論内緒にしている。

別の場所に引っ越したとは言ったけど、それがどこかは恥ずかしくて言えなかった。

裕福な紫乃に、お金がなくてボロアパートに住んでるなんて、死んでも言いたくなかった…というのが本音だけれど。


とにかく、早急にお金がいる…。

それだけは確かだった。