翌日。
アタシが手渡した二つのシュシュを、紫乃は大事そうに胸に抱いた。
「ホントに作ってくれたんだ!理香子ありがとう!私の宝物にする!」
「二つ、あるから」
「うん!私がツインテにしてるから二つも作ってくれたんだよね。ちょっと待ってて…」
紫乃は結っていた髪紐をしゅるりとほどくと、シュシュでツインテールを結び直した。
「どうかな?」
「いいんじゃない?」
気恥ずかしくて、つい素っ気ない感想になった。
紫乃は「えへへ」と嬉しそうにシュシュを撫でた。
「新しいお揃い、嬉しいな!」
アタシの手首にはめられたシュシュを見つめながら紫乃がニッコリ笑った。
***
中学生になり、アタシと紫乃は別々のクラスになった。
アタシが一組で紫乃が三組。
紫乃はそれを知った時、涙ぐんでいたけれど…アタシは内心、少し嬉しかった。
紫乃はいつもアタシにべったりだったから。
親友でもヒーローの相棒でも、適度な距離というのは必要だと思う。
登下校も一緒、中休みや昼休みも一緒に過ごす紫乃との毎日の中で。
教室一つ分の壁は、アタシから紫乃を離してくれる唯一のものだった。
二年生になった頃から、アタシは派手なグループとつるむようになっていった。
紫乃と本格的に距離を置き始めたのも、その頃だ。
偶然にも、またクラスは別れた。
紫乃に「遊ぼう」と言われても、他の子と先約があるからと言って断った。
毎日家まで迎えにくるから、登校は変わらず紫乃としていたけれど、下校は新しくできた友達とした。
中休みと昼休みは…不思議と紫乃は顔を見せなかった。
きっと紫乃にも、アタシ以外に友達ができたんだろう。
そう思って何も聞かなかった。
けど、ある日…。
冬の寒さが厳しくなってきた頃だ。
いつものように友達と帰ろうとしていた時だった。
尿意を感じたアタシは、トイレに寄るからと友達数名を先に行かせて待っててもらうことにした。
トイレが終わり、廊下に出た時…紫乃の姿が見えた。
「―――紫乃?」
声をかけたのは、紫乃が全身びっしょりに濡れていたから。
紫乃はこんな真冬に、水浴びするようなバカな子じゃない。
紫乃はアタシに気づくとハッとした。
そしてくりっとした大きな目から、ボロボロ涙を流してへにゃりと笑った。
「えへへ…また、嫌われちゃった…」
―――アタシは、紫乃を抱き締めた。
紫乃はまた、標的にされていた。
今度は…イジメという名の―――。