小学校もあとわずかという日。
紫乃が泣きながらランドセルを抱き締めていた。

「どうしたの?」
「だ、だって…卒業しちゃったら、理香子とお揃いのランドセル…使えなくなっちゃうでしょ…?」

アタシはため息を吐いた。
そんなことで泣かないでよ…呆れたようにそう言えば、紫乃はまた泣き出した。

最近、紫乃のこういう所が面倒に感じる。

少し前まで妹みたく思っていた甘えん坊な性格も、後ろを雛鳥みたくついてくる様子も、今では少し鬱陶しい。

そう言ったら、また泣くだろうから言わないけど。


私は学校が終わったその帰りに、紫乃をつれてある手芸店を訪れた。
季節は冬…毛糸のコーナーは夏に比べて品揃え豊富になっていた。

「好きなの選んで」
「…え?」
「作ってあげる」

そんな言葉だったけど、紫乃には私の伝えたいことが伝わったらしい。
目をキラキラ輝かせながら毛糸を選びだす。
私の舌足らずな説明を、汲み取ってくれる紫乃は好きだ。

それでたまにフォローもしてくれるから、そんな所は一緒にいて、便利だと思う。

「これとこれ可愛い色!」

紫乃が指差したのは白の毛糸と、ピンクの毛糸の二種類だった。
紫乃がどうしようかな…と悩む。
アタシはその二つを手に取った。

「理香子?」
「二つとも買おう、片方は紫乃が出してね」
「出すって…お金?それはいいけど…毛糸二つだったら作りにくくない?」

紫乃が小首をかしげた。
私は「大丈夫」とだけ告げてレジへ向かう。
紫乃がその後ろをパタパタと走ってきていた。

その夜。

アタシは『簡単!毛糸で作る小物集』という本とにらめっこしながら両手を動かしていた。
編み棒を交差させながら、少しずつ目的の形に編み上げていく。
作っているのはシュシュ。
手先が器用なアタシでも、やはり二種類を組み合わせる編み方は難しかった。


―――それでも。


「…できた…」


机の上には白とピンクの混ざったシュシュ。
一つ作れてしまえば、二つ目は簡単だった。
あっという間に机に並ぶ二つのシュシュ。
私はチラリと毛糸の残りを見た。
まだ少し残っている。
あとシュシュ一つ分くらいなら…。

紫乃のツインテールが頭に浮かんだ。

「…ついでだしね」

私は呟いて、毛糸を一つ手に取った。