友達ドール


保育園で出会った春日 紫乃は、よく私のマネをしてくる子だった。

例えばランドセル。
パパにおねだりして買ってもらったココア色のランドセルは、辺りに散りばめられたレースの模様がとても可愛かった。
それを聞いた紫乃も、翌日父親から同じものを買って貰ったらしい。

例えば筆箱や、鉛筆…消しゴムだってそうだ。
紫乃はいつも、私のマネをする。

「だって理香子の持ってる物って、超可愛いんだもん!」

嬉しそうに話す紫乃を、アタシはいつしか妹のように思っていた。
甘えん坊で、手のかかる妹。

口下手でキツい印象を持たれていたアタシの、唯一の友達でもあった。

小学校六年生になった頃だろうか。
整った顔で明るくて、何より可愛かった紫乃は、男子達からよくモテた。
紫乃の横にいたアタシも、言葉と性格の難はあったけど、容姿が良かったためか、同じようにちやほやされていた…そんなある日。
それをよく思わない女子グループから嫌がらせを受けたのだ。
それも、彼女達が狙ったのは紫乃だった。
アタシを狙うより確実だと思われたのかもしれない。

『ブス、死ね!』
『ぶりっこ女!』

そんな言葉が書かれた紙を下駄箱に入れられる日が続いた。
アタシは子供っぽいことをするなぁ…ぐらいにしか思ってなかったが、紫乃は違ったようだ。
本気で悩み、苦しんでいた。
そしてある日、アタシは放課後の教室で一人、静かに涙を流す紫乃を見た。

―――このままじゃ、紫乃が壊れてしまう。

そう思ったアタシは行動に出た。

紫乃に嫌がらせをした女子全員に、紫乃がされたことと同じことをしたのだ。

暴言を書いた手紙を下駄箱に入れた。

それだけじゃ生ぬるいと感じて、アタシ自身も苦手だったけど、虫を取りに行った。
その虫もメモと一緒に下駄箱へ…。

翌日、上履きの中を這い回る虫と自身のコンプレックスを書かれた紙を見て、その女子達は卒倒していた。

紫乃と二人、その光景を見て大笑いしたのを覚えている。

「ねぇ紫乃」

ひとしきり笑った後、アタシは紫乃に声をかけた。

「なに、理香子?」
「アタシ達、これからヒーローにならない?」
「ヒーロー?」

紫乃が目をパチクリさせる。

「そう、ヒーロー!…弱い子をイジメる奴や、悪いことした奴を、アタシ達でこらしめるのよ」
「…理香子スゴい…!私もやる!ヒーローになって皆を守るの!」
「そう言ってくれると思ってた。アタシらは親友だもんね」
「うんっ!親友親友!」


そしてその日からアタシ達はヒーローになった。

クラス内でのイジメが、その一年間で完全に無くなったのだ。
その理由はイジメがバレた時、アタシ達からそれ以上の報復を受けるから。

例えば悪口を言った子には、悪口以上の罵声で一日中ののしったり…誰かを突き飛ばして廊下に倒した子には、階段から落ちてもらったり。

これはイジメじゃない。

アタシ達はただヒーローとして、制裁を加えているだけなんだから。


そうでしょう?