学校に登校すると、校内がざわついていた。

どうやら永野君が行方不明になったことは、もう学校中に知れわたっているらしい。
教室に向かうまでの短い間にも、あちらこちらでひそひそ話が飛び交っていた。

教室のドアを開ける。

「それで永野ってば、白鳥さんを一人で置いていって…あ!来た来た!二人供!」

クラスの皆に囲まれていた青谷さんが、私達に気づき手を大きく振った。
皆の視線が集中する。

「―――ヤバイよ永野の奴!行方不明だって…って先生から聞いてるよね」
「うん…」
「あれから何度か、私も連絡してみたんだけど繋がらなくてさー…」

心配してるようだが、青谷さんの声には興奮が混じっているようにも思えた。

「なぁなぁ、白鳥さんと横手も永野と一緒に花火大会に行ってたんだろ?」
「それ!アタシも気になってた…ねぇ、永野君最後に会った時どんな感じだった!?」
「告白されたの白鳥さんだっけ…永野はどっち方面に歩いて行ったか分かる??」
「横手は?何かアイツの手がかりとか…」

皆が、私と優に質問する。
それはどこか永野君の行方不明を楽しんでいるかのように思えた。
例えるなら…そう、探偵。
皆、今まさに探偵気分で謎を解こうとしているんだ。

永野君が消えた謎を―――。


「優衣、白鳥さん。退いてくれる?」

ふと、後ろから声がした。

「あ、ごめんなさ―――」

言いかけて、目を丸くした。

そこには、笑顔の理香子がいたから。
清々しい笑顔で、理香子は私達の間を通り抜けて、自分の席についた。

優を除く…私を含めたクラスの全員が、口をポカンと開きその光景を見ている。

理香子の姿を見たのは何ヵ月ぶりだろう。

ずっと不登校をしていたのに。
―――何で、急に?

「お、おい紺野…!お前、何笑ってんだよ!」

男子の一人が理香子に詰め寄った。

「お前も知ってるだろ!永野が行方不明になったの…それでよく笑えるな!?」

その言葉に理香子は鼻で笑った。

「へー、そうなんだ…ふふ…ふふふふふっ!」

クラスがざわつく。
先程とは違う意味で。

「ふふっ、あはは…!あー、楽しい!」

理香子は心底面白そうに笑っていた。


その日の朝礼で、先生から聞いた。
理香子が一週間後に退学することが決まったと。