「お、お待たせ青谷さん…!」
「もう遅いよーって……その格好…」
「へ、変かな?」

髪の毛を耳にかけながら首をかしげる。
私の今の格好はというと、夏物の水色のパーカーに紺色のジーパンとサンダルという…とてもラフな物。

「いや?ビックリしたけど優衣ってば、ラフなのも似合うじゃーん!」
「…えへへ、ありがとう…」

これは先程、近くの古着屋で買ったもの。
優の言葉を思い出す。

『この近くに古着屋さんがあるでしょう?そこで服を買って着替えるのはどうかな…急げば五分くらいで終わるし、その間に私は永野君を見つからない場所に隠しておくから優衣ちゃんは青谷さんの所に行って?』

時間はギリギリセーフの七時五十九分。
花火開始の一分前。

「ほら浜辺に行こう!」

青谷さんに手を引っ張られる。
それと同時に、夜空に花火が打ち上がった。




***


「あ~今年も綺麗だったねぇ!」

青谷さんが満足そうに背伸びをした。
私を見てパチリとウィンクする。

「あっちはどうなったかな?」

あっち、とは優と永野君のことだろう。
青谷さんはまだ永野君の死を知らない。
今頃、永野君の告白が終わった頃だろうとでも思っている筈だ。


「そ、そうだね…気になるよね」
「でしょー?そろそろ探しに行こうか?」

早く結果を知りたいしね、と青谷さんが八重歯をのぞかせて笑った。
再び縁日へと移動する。

「あ、いたよ白鳥さん!」

入り口のすぐ近く、リンゴ飴の屋台に優がいた。
店主のおじさんにお金を払い、リンゴ飴を受けとる優。
私達に気づいて小さく手を振った。

「優…永野君とは、一緒じゃないの?」

平然を装い、そう聞いた。
本当は、彼が優の隣にいない理由を知っているのに。

「それが…私、永野君に告白されたんだけど…お断りしたの…そしたら永野君、帰るって言い出して…」


優は目を伏せ、申し訳なさそうに言った。

―――事前に決めた通りの言葉。

永野君は優に告白したけれどあっさりフラれて、傷心のまま優をその場に残してどこかへ立ち去って行った…というのが私と優が考えた筋書きだった。

「え、マジで!?フラれたからって、女の子一人縁日の人混みに置いてくとか…!永野あり得ない!」

青谷さんが永野君を最低扱いして怒っている。
…確かに違う意味で最低男だったけど、自分のした行為を振り返れば、私も永野君と大差ないだろう。
少しだけ、残っていた良心が痛む。

―――だけど。

「私は平気…それより気を取り直して、もう少し縁日を回りましょう!」
「だね、白鳥さん!あの最低男には私が説教しとくから!」
「ふふ、程々にね青谷さん…行きましょ優衣ちゃん!」

優がリンゴ飴を持つ手とは逆の手で、私の手を握った。
暑いのか、少し手のひらが汗ばんでいる。
……温かい体温に心が満たされていく。


私は、優を守れたんだ。

「…うん、行こう優…!」



私達は縁日の人混みの中へと消えていった。