「ご…ご、の…!!」

永野君が目を血走らせた。
足をばたつかせせ必死に抵抗を試みる。

「ゴメンね…ごめんなさい永野君…!」

優は永野君に馬乗りになって、なおも首を絞め続ける―――。

呆然とその光景を見ていた私も、永野君が落ちていたスタンガンに手を伸ばそうとしたのを見て―――動く!

「―――!」

永野君に取られるギリギリの所で、私がスタンガンを取った!

「優!永野君から離れて!」

優が永野君の体から手を離して飛び退く。

私は即座にスタンガンを起動して、永野君の首元に当てた!

ビリリリリリッ

「ぐあっ―――!?」

―――永野君が泡を吹いて倒れる。

「優、これ使おう!」

私は息つく間もなく優に言った。
私が手にしていたのは、ほどいたばかりの浴衣の帯だった。
先程まで着けていたそれを、優と二人で縦長になるよう半分に折り、もう一度半分に折った。
先程よりも細くなったそれを永野君の首に巻き付ける。

そして、永野君の体を木にもたれるように座らせて、首に巻いた帯を私と優が左右から引っ張る!

別々の方向に引っ張られた帯は、徐々に永野君の首を絞めていった。



そして…。



しばらくして、永野君の顔色は青白く変色した。

優が心臓の音を確かめる。

「ど…どう?」

ハァハァと肩で息をしながら私が問いかける。
優は一言「死んでるわ」と呟いた。
私はその場に膝から崩れ落ちる。


―――人を、殺してしまった。


優が駆け寄ってくる。
優は両手を伸ばして、震える私を抱き締めた。

「これから…どうしよう」

私が呟く。

「私…青谷さんに一度家に帰るって…着替えてから戻ってくるって言ったの…それで優達を迎えに行くって…でも、でも私、優と永野君を二人にさせたくなくて……」
「うん、うん…ありがとう優衣ちゃん。私が無事なのは優衣ちゃんのおかげだよ…」
「ど、どうしよう、優…!永野君…私、殺しちゃった…!」

優が「大丈夫」と、優しく私の頭を撫でた。
そしてゆっくりと私の手を取って、その場から立ち上がらせる。

「まず、優衣ちゃんは浴衣を直さなきゃね…こっち来て、優衣ちゃん」

優は息絶えた永野君の首から帯をしゅるりとほどいた。
優に着付けを任せて、その間に私は考える。
まだ頭が真っ白で、正直何も浮かばないけれど…。
私はカラカラの喉でツバを飲み込んだ。

―――優との生活を守るためには、どうすればいいのか考えるんだ。

「はい、できた…可愛いよ」
「あ、りがとう、優」
「どういたしまして」

優がほほ笑む。
さっきまで一緒に人を殺していたとは到底思えない程、自然な笑顔。
私は永野君と揉み合った時に無くした、泥々に汚れた鞄を木の隙間に見つけて、スマホを確認した。

大丈夫、割れたりしてない。

スマホを起動する。
時間は…七時、五十分―――。

もう家に帰って着替える時間はない。
これでは青谷さんに嘘をついたことになり、最悪永野君の遺体が見つかった時に疑われるかもしれない―――。


どうすれば―――!
その時。




「優衣ちゃん、提案なんだけど…」


優の言葉に、私は頷いた。