友達ドール

「壊れない…オモチャ?」

永野君の言葉を繰り返す。
永野君はこくりと頷いた。

「俺さぁ、小さい頃から傷ついたモノを見るのが好きだったんだ…例えば転んで怪我をした子供がいるだろ?痛いって泣きながらぐしゃぐしゃに歪む顔を見てると、胸が弾むのを覚えた。あとは車に跳ねられた動物の死骸…内臓をぶちまけてアホみたいに口を開いて、目玉を飛び出させた姿には言葉にできない興奮が体を支配した」

永野君は恍惚とした表情で語る。
私は込み上げる吐き気を抑えようと、必死に口に手を当てた。
…永野君は…、この人は何を言っているの…?

「そのうち、俺は思うようになった。見てるだけでこんな気持ちになるなら…自分の手でそれをやったらどうなるんだって…それでまずは手頃なところで、アリを使って実験してみたんだ。歩いてるアリの体を爪で突き刺して半分にしてみた…最初は楽しかったけど、これはすぐに飽きたな」

永野君がニコニコと楽しそうに思い出を語り続ける。

「次に小学生の頃、クラスで飼ってたメダカの水槽の中に洗剤を入れてみた。バレないようにコッソリな…すぐに息絶えて水面にプカプカ浮かんできたよ。生き物係の奴らが泣いてて笑えたっけ…ははっ…」

正直、すぐにこの場から逃げ出したかった。
けど足が震えて動けないし、何よりこのまま優を置いてはいけない。


「本格的にやったのは中学の時だな。その頃には犬とか猫とか、安く買えるハムスターとか…動物を虐待して殺すくらいは普通にやってたんだけど…物足りなくてさ。もう一歩踏み出すことにしたんだよ」

何、を…?
私が呟くと、永野君がニィ…と笑った。


「駅のホームから、突き落としてみたんだ」

―――私は愕然とした。

「だ…れを…?」

かろうじて言葉を絞り出す。
永野君は嬉しそうな顔をしてみせた。

「―――さぁ?知らないオッサンだよ。朝っぱらから酔っぱらっててさ、フラフラ歩いてたんだ。んで、先頭に陣取って電車を待ってた。段々周りにも人が集まってきてさ、電車がやって来た…その時に、こう…手を伸ばして…」
「…そんなの、目撃されてるんじゃ…?」
「それが奇跡的に、目撃者は誰一人いなかったんだ。皆スマホや、連れとの会話に夢中でさ、オッサンがホームから落ちて引かれるまで…気づく奴はいなかった」
「自分が何をやったか分かってるの…!?」
「勿論。人殺しって名前の実験だ」
「…あ、頭おかしいよ…!!」
「そうかもな…でもそれが俺なんだよ、横手」


理解ができない。
人殺しまでしてるのに、何でこんなにも平然としているの…!?

「さて、と」

永野君が立ち上がり、優から離れて私の方へと向かってくる。

「横手、俺の用事が終わるまでちょっと寝ててくれ」

永野君の右手に持たれたスタンガンが、バチバチっと音を立てた。

「―――よ、用事って何なの!?」

私は後ずさりながら永野君に聞く。
永野君は首をかしげた。



「ん?白鳥が本当に死んだりしないかとか、妊娠しないかを確かめるんだよ」


そう言って笑った永野君の顔は、人間の皮を被った悪魔のようだった。