「…どういうこと…?」

目の前に、広がる光景。

横たわる浴衣の少女を、男の人が地面に押し倒している。

「―――優!?」

倒れていたのは、優だった。
目を瞑り、わずかに開いた口からは泡を吹いているのが分かる。

「優に何したの、永野君!!」

私は優に覆い被さっている男の人…永野君に声をかけた。
永野君は驚いた様子もなく、私を睨みつける。
小雨はいつの間にか止んでいた。

「…よくここが分かったな、横手」

チッと舌打ちしながら永野君が言った。

「青谷の奴、使えねぇのな。別の奴に任せれば良かった」
「優に何する気なの!離れて!」
「近づくな」
「―――っ!」

永野君が手に持ったスタンガンを優の首にあてがった。
何でそんなものを…!?

「…それで優を気絶させたの…?」

一歩後ろに下がりながら永野君を見た。
永野君は悪びれることなく笑いながら「そうだよ」と言い放つ。

「白鳥のことが心配か?」
「当たり前でしょ…!!」
「ふーん、それって友達だから?」

上半身を上げて、膝立ちになった永野君が目を細めた。
スタンガンは、相変わらず優の首元につけられている。

「そうよ!それが何か―――」

「あははははっ!!」

「!?」

突然、永野君が笑いだした。
何が可笑しいの!?と私が叫べば、永野君は途端に真顔になりこう答えた。


「よく言うよ…人形相手にさ」


―――!!

目を見開いた私に、永野君は続けた。

「俺、知ってたんだ。白鳥の正体…友達ドールだっけ?」
「な…何でそのことを……」
「白鳥が転校してくる前の日…お前がドレス姿のド派手なお姉さんから友達ドールの説明を受けてた時、俺も教室の外にいたんだよ」
「……そん、な……!」

あの時、永野君は忘れ物をして、教室へ取りに戻ろうとしていたらしい。
そこには私と優、エリスさんがいて…その時に友達ドールの存在と優の正体を知った。

「最初は信じられなくてさ…白鳥はどこからどう見ても人間だったし」

だから永野君は確かめることにしたという。
あの日、私達より先に教室から出たエリスさんの手を掴み、隣の教室に連れ込んだのだ。

「その人は俺の質問に何でも答えてくれた。でも殆どが、横手に説明してたのと同じ内容だった。それで俺は質問を変えてみたんだ」

―――友達ドールは自分にも貰えるのか?
それはできないと言われたそうだ。
友達ドールを貰えるのは、お店に来た人間だけだとエリスさんは言ったらしい。
―――友達ドールは死ぬのか?
ドールを貰った人間が死なない限り、頭を割られても心臓を刺されても死なないという返答だったようだ。
―――友達ドールは子供を産めるのか?
エリスさんの返事はNOだったという。
生理は人間と同じく定期的に来るが、子供を産むことは絶対にないと言われたらしい。

「…何、その質問……?」

聞き終えた私は体が冷えていくのを感じた。
辺りはこんなにも蒸し暑いのに…寒気がする。
ドールは死ぬのか、とか…子供を産めるのかとか…質問の意図がよく分からない。

何が目的で永野君は、友達ドールを欲しがったの…?



「俺ね、壊れないオモチャが欲しかったんだ」



私の心を読んだかのように、永野君は言った。