楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

優と二人で過ごす夏休みはとても有意義なものだった。
朝…ベッドから起きて二人でお母さんの作った朝ごはんを食べ、その後はお片付けを手伝う。
なんてことない日々のお片付けも、優と二人なら楽しかった。
お昼…宿題に頭を悩ませながらも終わったら読書やゲームをして遊んだ。
あまり外に出ない、インドアな私に、優は嫌な顔せず付き合ってくれた。
夜…お母さんが仕事でいない日は、決まって優が手料理を振る舞ってくれた。
約束していたオムライス…ボリュームのあるフワッとした卵に包まれたケチャップライスはそれだけで食欲をそそり、私の胃袋を掴んだ。

些細な日常…それが優という存在で特別なものに変わっていく。

「優衣ちゃん、お口にケチャップがついてるよ……ん、取れました」
「あ、ありがとう…」
「慌てて食べなくてもいいからね?」

オムライスは逃げません、と優が笑う。
私子供みたいだ…優はそのお母さん。
ケチャップを口につけたままだったなんて。
ちょっと恥ずかしい…。

「…そ、そうだ、明日は花火大会だね?」

目を窓に向けながら、話を反らした。
ザアザアと雨が降っている。

「…やっぱり、中止になるのかな…」

優が寂しげに呟いた。

「大丈夫だよ、きっと…!」
「優衣ちゃん?」
「明日は晴れるかもだし、棚野花火大会はこの町の夏の、一大イベントだもん」

毎年八月二十九日に開催される棚野花火大会を楽しみにしているのは地元の人間だけじゃない。
主催者側も毎年力を入れているイベントだ。
例え当日、雨が降っていても夜の八時までに少しでも雨が弱まれば、花火は空へと大輪の花を咲かせるだろう。

そのことを優に伝える。

「…よーし、てるてるぼうず沢山作るね」

優はそう言うと残っていたオムライスを口にかきこみ、お皿を流し台に下げてテーブルに戻ってきた。
その手にはティッシュの箱が……。

「…ぷっ…ふふ、あははははっ!」
「優衣ちゃん…?どうしたの?」
「だ、だって優、本気でてるてるぼうず作ってるんだもん…!ふふっ!」
「え~…むぅ……」

優が顔を赤らめながら頬を膨らました。
それでも手先はティッシュを丸め続けている。
私は笑うのをやめて、ティッシュを一枚取り出した。

「…優衣ちゃん?」
「ゴメンね、私も手伝うよ」


明日の降水確率は六十%……だけど。
二人で作れば、てるてるぼうずも効果があるかもしれない。

その日は一日、優とてるてるぼうずを作って過ぎていった。