それから月日は流れて、七月の終わり。
夏休み前、最後の授業を終えた私と優は帰路につこうとしていた。
あれから大きく変わったことといえば、三つ。



「お、白鳥と横手!今帰り?」
「永野君…」

その一つが、この永野君。
理香子が疑われた時、理香子の腕を掴んで怒鳴っていた同じクラスの男子だ。
あの一件以来、彼は私達によく話しかけてくるようになった。
…これは私の勘なんだけど、永野君は優が好きなんだと思う。
本当は優とだけ話したいってオーラが出てる。

「永野君も今帰り?」
「そう!そうなんだよ、一緒に帰らねぇ?」

優の言葉を待ってたと言わんばかりに、永野君が優に近づく。
優は永野君にほほ笑むと、私を見て「優衣ちゃんがいいなら」と言った。

「…うん、三人で帰ろうか」
「やった!!」

私が頷くと、永野君が大袈裟に喜ぶ。

「おっし!待ってて、すぐ鞄持ってくるわ」
「ゆっくりで大丈夫だよ」

こけるんじゃないかと思うくらい大急ぎで席に戻り、帰り支度をする永野君に優と二人で苦笑する。

その時、ゆらりと席を立つ紫乃に視線が向いた。

その顔は頬がこけて、目はどこか虚ろで、体はあの頃よりも痩せているように見えた。
まともにご飯も食べていないのだろう。
これが二つ目の変化。

紫乃は「さよなら」と呟き私と優の間を通って帰っていく。
優は何も返さない。ニコニコと永野の君の帰り支度を見つめている。
数ヵ月経ったいまでも、優は私のお願いを守ってくれていた。

『理香子と紫乃に関わらない』こと。

当初は理香子と紫乃に対する、優の突然の無視に、驚くクラスメイト達だったけど…そのうち『白鳥さんは横手をイジメてた二人に怒ってるんだ』と勝手に思ってくれたみたいで、今では皆も、優のマネをして理香子と紫乃を避けるようになっていった。

そしてその理香子はというと……あの日以来、学校に来なくなった。
いわゆる不登校というものだった。


これが変化の三つ目。

理香子は不登校になる前に、私と優と紫乃を除くクラスメイト皆に連絡してまわって、こう言ったらしい。

『優衣をイジメてたのはアタシ。理由はウザかったから。悪いとはおもってないし、謝るつもりもない』

なぜそのタイミングで私をイジメていたと皆に告げたのか…分からないけれど、皆の怒りの矛先は理香子に向かっていた。

「お待たせ白鳥、横手!行こうぜ」
「…あ、うん」
「行こう、優衣ちゃん」


優と手を繋いで前を行く永野君を追いかけた。