友達ドール

その後は適当に談笑し、通話は終わった。

「じゃあ話をまとめるね、優衣ちゃん」
「……うん、優」

二人、部屋のベッドに座り話し始めた。

「理香子さんには一年前の夏休み時点で、結婚願望があり、お金持ちの奏太さんの存在を知った」

それで理香子は急遽合コンをセッティングしたのだろう。
私は数合わせの引き立て役、紫乃は…よく分からない。
もしもの時のためのフォロー役を期待していたのかもしれない。

「合コンで何とか奏太さんに近づこうとしたけど、誤算が起こる」
「…奏太君が、私を選んだから…?」
「そうだと思うの。…あ、勿論、優衣ちゃんは悪くないからね」

優がにこりとほほ笑む。
私も笑ってそれに返した。

「それから親戚のお兄さんと歩いている所を紫乃さんに勘違いされて、それから嫌がらせが…イジメが始まった」
「…うん…」

思い出すだけで憂鬱になる。優がうつ向いてしまった私の顔を覗きこんだ。

「…優衣ちゃんごめんね…思い出しちゃったね…辛いこと」
「う、ううん、平気だよ!大丈夫……えっと、それで?」

続きを促すと、優は一瞬考えて言葉を続けた。

「私が転校してきた日に、その勘違いは誤解だと言ったわ…それでその勘違いは元々紫乃さんが目撃したことだと、理香子さんが言った」
「そういえばあの時、紫乃は何か反論しようとしてたよね…」

理香子に睨まれて、結局何も言えてなかったけれど。

「えぇ…そして同日の…多分学校帰りだと思うけれど、紫乃さんは仲直りの印にと、香水を理香子さんにプレゼントした」
「そして今日、紫乃は学校を休んで…お昼に理香子は疑われてた。自分の鞄に香水をかけようとして、優の鞄に手を伸ばしたから…」
「私の鞄のことは誤解だとして…そしたら理香子さんは自分の鞄に香水を振りかけようとしていたんだよね…何でだろう?」
「……さぁ?分からないよ…とにかく、その後教室を飛び出した理香子は紫乃に連絡をとって…思い出の公園で、紫乃に友達やめようって言ったんだよね」

考えてみて分かったのは、新たなる謎。
昨日紫乃は、何を言おうとしていたのか?
今日、理香子はなぜ香水をつけようとしたのか?
今日のお昼から下校時間までの間に、理香子に何があって、紫乃との友達関係を終わらせようとしたのか……。

―――まだ、情報が足りないんだ。

「頭がぐるぐるしてきた…」

ごろんとベッドに倒れこむ私。
優も隣に寝転がる。

「…明日、また話を聞かないとね。紫乃さんからも理香子さんからも…」
「……優、あのね…」
「ん?優衣ちゃんどうしたの?」

私は先程から収まらない、この胸のモヤモヤを話してみることにした。

「優は何で…あの二人にそこまでしてあげるの?」
「同じ教室の、お友達だもの。お友達には仲良くしていてもらいたいの…友達ドールだからかしら?友達というモノに、私達は少し敏感なの」
「…別に、もういいんじゃないかな…」
「優衣ちゃん?」

私は起き上がり、優の柔らかな髪を撫でた。

「あの二人がどうなろうと、私達の知ったことじゃないよ…私はあの二人と友達になった覚えはないもん…それに理香子は優のこと突き飛ばしたんだよ…?」
「うん、そうね」
「わ、私が言いたいのは…ね?」

ゆっくりと深呼吸する。
優もむくりと起き上がってくれた。
優しい眼差し…私は目をギュッと瞑った。

「まだ、理香子を許せないの、私……だから優も、もう理香子に…理香子達に、構わないでほしい…関わらないでほしい…」

……言ってしまった……!
理香子達の関係が崩れたとしても、私はどうでもいい…私をイジメていたのだから、それくらいは当然の報いだと思う。
クラスの他の子達を許す勇気はあっても、理香子と紫乃を許す勇気なんて、ない。
勿論、少しだけ…可哀想とは思うけれど。

でも、私のこんな狭い心を、優はどう思うだろう……?

恐る恐る優を見つめた。


優は、いつも通りの笑顔で笑っている。


「それが優衣ちゃんの望みなら」


確かに一言、そう言った。