友達ドール

その話を聞いた時、紫乃は驚いた様子で口をポカンと開けていた。
使おうとしていた香水―――。
それを返して…友達をやめる……?
何だか紫乃の話で、理香子という人間の謎が深まってきた気がする…。

「…最近の理香子のこと、分かんないよ…」

紫乃の悲痛な声と共に、私達はカフェを出た。注文した飲み物はまだ半分も残っている。
お金を払い外に出ると、辺りはもうすっかり暗くなっていて、闇が私達を包み込んだ。
紫乃とはカフェを出てすぐ別れた。
「学校でまた、会おうね紫乃さん」という優の言葉は、紫乃に届いただろうか。
紫乃は私達を振り返ることなく、来た道を戻っていった。

「優衣ちゃん、奏太さんに連絡ってとれないかな?」

家に着くなり優が呟いた。

「奏太君…って、合コンで理香子が狙ってた…私と連絡先を交換した、あの男の子…?」
「うん、その子…その子も合コンで理香子さんと話してたんだよね」
「…うん、理香子が積極的に話してたかな…」

部屋に着いて制服を脱ぎ、部屋着に着替える。
エリスさんが送ってくれた優の荷物に入っていた服だ。
友達記念のお揃いのパーカーワンピ…カジュアルなデザインだから楽に着られて部屋着にも使える。
私は青と白の、優はピンクと白のパーカーワンピを纏った。

「でも、最近はあまり連絡とってないから…覚えられてるか分かんないよ?」
「それでもやってみよう、優衣ちゃん。それであの日、奏太さんが理香子さんと何を話していたか聞いてみるの…そしたら理香子さんのことも、紫乃さんと友達をやめようとしたワケも少しは分かるかもしれないでしょう?」
「………」
「?…優衣ちゃん…?」



―――何でだろう。
何で優は、理香子と紫乃のこと、そこまでしてあげようとするの―――?

心の片隅に、黒いモヤがかかる。
優が私以外の子を気にかけているのが、面白くない。
ちらり、と優を見つめた。

何で、理香子達なんかに構うの?

だけどそれを優には、言えない。
優は優しいから、二人を心配しているんだ。
私はスマホを取り出して奏太君の名前をタップした。
プルルルル、と音が鳴る。

「大丈夫……繋がりそうだよ優」

そう言って笑う。

「ありがとう、優衣ちゃん…!」

途端に不安そうな顔をしていた優が笑顔になる。
大丈夫、優は私が一番大切なんだから。
そういう風に、作られているのだから。
理香子が紫乃を捨てたように、優が私を捨てるなんてことはあり得ないのだから。

そう考えると少し安堵できた。

『――もしもし?』

ふと、耳元にあてたスマホから声がした。
私は優にしー、と人差し指を口元にあててジェスチャーした。
優が頷き、両手を口にあてる。

『もしもし、もしもーし!』
「あ、あの、お久しぶりです奏太君、優衣です」
『あ、優衣ちゃん、久しぶりだね!元気だったかい?』
「はい、元気です」
『それで?何かあったの?』
「あ…その、実は………」

私は一年前の夏休みに行われた合コンについて切り出した。
奏太君はあー…あの時ね、と呟き、スマホの向こうで苦笑したのが分かった。
今のうちにと画面を操作してスピーカーモードに変える。
これで優にも奏太君の声が聞こえるだろう。

『本当言うとさ、俺あまり乗り気じゃなかったんだあの合コン』
「そう、なんですか?」
『どうしても俺に会いたいって熱望してる子がいて、会ってやってくれって友達に頭下げられたからあの日、そいつと…あともう一人と一緒に三人で合コンに参加したんだ』
「熱望してる子……」
『うん。確か…えーっと…』
「…紺野 理香子……?」
『そう!紺野さん!…あの子には参っちゃったよ。誰から聞いたのか俺の家が金持ちって知ってたみたいでさ…会話とかそればっかなの』

優と視線が交わる。
やっぱり理香子は、奏太君のお金目当てで近づこうとしていたの………?

『あと驚いたのは…結婚とか興味ありますかって質問かな…何でも早く結婚したいみたいでさぁ………何であんな急いでたんだろう』

「!!」

新事実だ。
理香子には強い結婚願望があった……?
狙ってたのは、玉の輿…?