友達ドール

「――それで、遅刻した…と?」
「は、はい…すみませんでした」

結局私達が学校に戻ったのはお昼になる少し前だった。
職員室に来るように言われた私達は担任の川西先生に全ての理由を話し、揃って頭を下げた。

「あの、先生!私が優衣ちゃんを誘っちゃったんです、だから怒るなら私を怒って下さい…」
「ち、違います!私が裏山にって提案して…だからこんな遅くなったんです、悪いのは私の方なんです…!」
「優衣ちゃん、違うよ、私が―――」
「ううん、私が―――」
「ああ、分かった分かった!もういいよ」

『―――え?』

二人、同時に首をかしげる。
先生は困ったように笑いながら、私と優の肩に手を置いた。

「うん、遅刻の理由は分かった。お前達は良いことをしたな!―――その子猫もきっと成仏できるだろう!」
「…先生…」
「だが、そういうときは先生にも相談をしてほしい。お前達の姿がなくて、先生は心配していたんだぞ?」

無事に登校してくれて良かった。あっはっは…と、先生が豪快に笑った。

「あ、ありがとうございます…!」
「ご心配、ありがとうございます先生」

優と二人、もう一度頭を下げた。

「よし、もう行っていいぞ!二人共、しっかり昼食を食べておけよ」
『はい!』
「うん、いい返事だな!」

失礼しました、と職員室のドアを閉める。
ちょうどお昼を告げるチャイムが鳴り、きゅるる…と私のお腹も鳴った。
優がにこりと笑う。

「お弁当食べよう、優衣ちゃん」
「うん、優」

一度教室に鞄を置いてから職員室に向かったため、お弁当も教室だ。
私達は談笑しながら二階に向かう。
ふと、誰かの怒鳴り声が聞こえた。

「…?今のって……」

声のする方には、人だかり。そこは私達のクラスの前だった。

「ごめんなさい、通して…優衣ちゃんこっち」

優に手を繋がれて、人だかりの中を掻き分けていく…。

教室のドアを開けると理香子が男子数人から囲まれているのが見えた。
何かを言い合っている……?

「二人共、大変だよ!」

クラスメイトの女子が声をかけてくれた。

「あ…どうしたの?この騒ぎ……」

私が聞くと、その子は理香子を睨んで軽蔑したように言い放った。

「理香子が優の鞄に何かしようとしたって!」
「え!?」
「私の鞄…?」
「違う!アタシは何もしてない!」

理香子が此方に気づいて声を荒げる。

「嘘つけ!俺見たんだからな!お前が白鳥の鞄に何かかけようとしてたの!その手、何を隠し持ってるんだよ!」

男子の一人が理香子の腕を掴む。
理香子の顔が苦痛に歪んだ。

「痛っ…!離せよ!これは香水!自分の鞄にかけようと思ってたの!」
「それで何で白鳥の鞄に手ぇ伸ばすことになるんだよ!おかしいだろ!?」
「横手の時みたいに、白鳥さんにも嫌がらせするつもりだったんだろ性格ブス!」
「だから、間違えたんだよ!アタシの鞄とアイツの鞄を!いいから離せよ痛いから!」
「そう言って逃げるつもりだろ!」

怒声が止まらない―――!
理香子が痛がっているのに、誰もその男子を止めようとしなかった。
皆が理香子を犯人だと決めつけていた。


―――優を除いて。



「もうやめて!!」



優の声が教室に響き渡った。