次の日も、私は優と一緒に登校していた。
学校に着き、上靴に履き替えようと下駄箱を見た、その時。

「…………」

下駄箱の前で何かをじっと見つめる優が気になった。
首をかしげて声をかける。…そして。

「優?どうし―――っ!?」

近寄った私も、下駄箱の異変に気づいた。


下駄箱に入っていたモノ――それは、子猫の死体だった。
小さなその体には沢山の切り傷があり、その手足は太い紐で縛られている。


そのショックな光景に、たまらずその場で嘔吐する私の肩を抱いて、優が悲しそうに呟いた。

「…なんて酷いことを……」

そして優は、子猫の死体に手を伸ばし、その小さな体を両手でしっかりと抱き締める。

「ゆ、優……?何をしてるの……?」
「この子、このままじゃ可哀想だもの…」

そしてテキパキと食い込んだ紐を解いていき、子猫の体を自由にしてあげた。
優が私にほほ笑む。

「優衣ちゃん…ちょっと待っててね。私、この子を埋葬してくるから…」

優はそのまま子猫の死体を連れて校舎を出ていく。私は嘔吐で汚れた口元を袖で拭い、慌ててその後を追った。



数十分後。
学校の近くにある裏山で、私達は整備もされていない獣道を歩いていた。

「優衣ちゃん、あそこにしましょう」

優が指差した場所には一本の桜の木。
全体的に木が多く、薄暗い印象のこの裏山で、その場所だけが光を一身に受けていた。
だから道中チラホラと見かけた他の桜の木より、この桜の木は立派に育つ事ができたのだろう。

「…良かった、ここの土は掘りやすそう…」

優が呟いた。
スコップなんて持っていないから、私達は手が汚れることもお構いなしに素手で土を掘る。

ものの数分で、大きな穴ができた。
その中に、優が子猫を優しく寝かせる。
その光景を、私はただ見守っていた。
こんなに綺麗な桜の木の下なら、あの子も寂しくないだろう。
優と一緒に上から土を被せてあげた後、二人で手を合わせてこの可哀想な子猫の冥福を祈る。

「…猫さん、天国で幸せになってね…」

目を瞑り、ひたすら祈り続ける優を横目で盗み見た。
優は、やっぱり優しい子だ。
そんな優の下駄箱に、惨殺された子猫の死体なんて悪趣味なモノを入れたのは、誰なんだろう……。
私は考えを巡らせる。
まず頭に浮かんだのは、理香子…次いで紫乃だった。
でも…あの二人にこんな酷いことができるのだろうか…?
私をイジメていた時も、してきたのは落書きや掃除の押し付け…暴力といえるのは精々、髪を引っ張るくらいで…二人がやったとしたら、こんなことは初めてだ。

「優衣ちゃん、優衣ちゃん…」
「…え?」

優が私の肩をポンポンと叩いた。

「近くにお花、咲いてないかな…」
「…お花…猫ちゃんに?」
「うん、お供え物…」
「…お花より、ご飯のが良いかも?今からコンビニ行って買ってきて、また戻ってこよう」

私の発言に優がキョトンとする。

「え、でも…午前中の授業に間に合わないかもしれないよ?」
「どうせ遅刻してるもん、平気だよ!…それに猫ちゃんガリガリだったし、多分ご飯もろくに食べられないまま…あんなことされて…これじゃあ何て言うか、報われないと思うの」
「優衣ちゃん…」

優に向かって手を差し出す。

「行こう、優」

優は嬉しそうに私の手を取った。