気がつくと、私は見知らぬお店の前に立っていた。
お店に立て掛けられた看板には『友達ドール』と書かれている。

ギィ…

ミントグリーンの淡いドアを開けると、同色で彩られた店内が目に飛び込んできた。ところせましと並べられた焦げ茶色の長い机の上にはたくさんのお人形…ドールが置かれている。
背丈は私と変わらない、160~170くらいの大きさで顔はスゴくリアルでどれも可愛い。

「…あれ?」

ふと、一体のドールの手から何かが落ちた。
手紙だ。ご来店されたお客様へ、と可愛らしい丸文字でかかれている。
私は手紙の中身を取り出した。


『本日はご来店、まことにありがとうございます。あなた様がこのお店に来てくださったのも何かのご縁…ささやかではありますが、店長より贈り物をさせていただければと思います。』

「…贈り物…?」
呟いてもう一枚の手紙を読む。

『この中からお好きなドールを一体、贈らせていただきます。あなたにとって、素敵な記念となりますように。 店長より』

手紙には『お気に召したドールに、住所と名前を書いた紙を持たせておいて下さい。後日発送させていただきます』と続いている。

……………。

私はゆっくり店内のドールを見渡した。
このお店の商品らしいドールたちには、値段がどこにもかかれていない。
その代わりにこのドール達は変な事が書かれた紙を首から下げていた。

『性格・寂しがりや』
『性格・怒りっぽい』
『性格・緊張しい』

何の事だろう?
不思議に思いながらも、私は一体のドールに目を奪われた。
白い手足に小さな顔。くりくりの大きな黒い瞳が私を見つめているような気がした。
髪は黒く、腰まで美しく伸びている。
首からは『性格・優しい』と書かれていて、私は決心した。

どうせ貰えるなら、優しい子がいい。

私を庇ってくれるような、そんな優しい友達が欲しい。
そうすればきっと―――――。

私は肩に下げていた鞄から、ノートを取り出して一枚破り、そこに筆箱から取り出したお気に入りのシャープペンでさらさらと自分の住所と名前を書いた。
それを二つに折り曲げて、先程のドールに持たせる。

……これで本当に届くのだろうか。

「もしこのお店が、あの噂のドール屋なら…」




届けて下さい…私の理想の友達を―――。



そこで私の意識は途切れた。