愛妻ドクターの赤裸々馴れ初め

2年になって、もうだいぶ経った頃。

この時から、私たちの結婚式を担当してくれた伊藤さんとは知り合いだ。

付き合い初めて4年、卒業するまで後2年。

私たちの付き合った記念日は12月20日。

私から隼斗に告白した。

同じクラスで修学旅行も同じ班になれて。

2人で帰ることが増えてきた日、クリスマスの話になって突然言いたくなった。

私が急に好きだと言った隼斗のあの顔を、私は一生忘れられない。

私が好きになって付き合えたけど、きっと今は同じくらい好きでいてくれてるはず。

あの時に勇気を出した私を今でも誉めてあげたい。






今日は海の近くの大型遊園地にデートで来た。

明日は都内に戻るから、隣接ホテルではないけれど、ここのホテルにはチャペルがついているのが見えた。


カーテンを開けてみると、ガーデンウェディングができそうな大きな庭が見える。

真っ白な壁がライトでぼんやりとオレンジ色に見えるのがすごくきれいだ。

私の今の悩みは、まだ隼斗に愛してもらえてないこと。

涼華や美月は大学でできた彼氏としたそうだ。

私の何が駄目なんだろう。

泊まりの旅行も初めてじゃないし、お互いの家にだって何回も泊まっている。

去年、同棲するかという話になったけど、2人とも通学時間が延びるし、卒業する年も違うから止めた。

それが悪かったのかな。

それとも、私に何かしたいと思えるほどの魅力がないのかな。

うん、この線が1番濃厚かも。

問題は私にあった、、、。

「ただいま。未桜?

どうした?」

窓際のソファーに膝を抱えたまま座っていると、隼斗が戻ってきた。

「お帰り。

ここから見えるチャペルがすごくきれいなの。

買いたいもの、あった?」

隼斗はシャワーから上がって、私の入っている間に売店に行っていた。

「うん、ほら。」

そう言って差し出してくれたのはマスクだ。

「あれ?風邪引いてたっけ。」

私が言うと、笑って首を振る。

「未桜が忘れたんだろう。

俺は別に乾燥なんて気にならない。」

「え?!あ、ありがとう!」

シャワーを終えて出てきたときに、呟いていたのが聞こえたのか。

受け取ると、確かに女性用の小さいやつだ。

「あぁ。

あ、それと良いものもらってきた。」

ヒラヒラと何かチラシを持っている。

「何?」

「チャペル、見たいんだろう?

明日の10時から見学会があるんだって。

どうせ帰るだけだから、少しぐらい遅くなってもいいだろ?」

思いがけない提案に嬉しさのあまり飛び付いてしまった。

そうしたらびっくりしながらも受け止めてくれたんだったなぁ。



翌朝、何もないままホテルのビュッフェで朝食をとってからチャペルに向かった。

周りのカップルはみんなもう少し年上で、本当にここを見極めに来ているという感じだった。


純白の壁と真っ赤なカーペットがすごくきれいで、みんな息を飲んでいた。


ガーデンウェディングの様子を見せてもらったり、ドレスを見たりした。

ここで結婚式をあげたいと考えていたけれど、隼斗に言ってみて、は?とか言われたら立ち直れないからやめておいた。

披露宴会場の見学か、ドレスの試着かに別れる時に、私たち以外の残りの9組は披露宴を希望したけれど、私たちはドレスの試着にした。

披露宴の話が先のこと過ぎて、さすがにやめておこうか、となったからだ。


ここで私たちは伊藤さんと会い、ずっとお世話になってきた。

「何か希望の形はありますか?

なければ、代表的なものを数着着てみませんか?」

衣装部屋はその名の通り、ドレスが壁を覆い尽くしていた。

カラードレスと純白のドレス。

「えっと、全然着てみたい形とかはまだないので、何かお任せできますか?」

「それでしたら、3人で1着ずつ選んでみませんか?

ご自分の好みと、新郎様の好み、それに第三者の目で判断した似合いそうなものを着てみてください。」

その楽しそうな提案に乗ることにして、3人であれこれ相談しながらお互いイチオシの3枚を選び抜いた。

1番最後まで悩んでいた隼斗は「気合いが違いますねぇー、さすがです。」とからかわれていて、真っ赤になっていたのがおもしろかった。

私が選んだのは、長袖でレース模様がすごく繊細できれいなマーメイドデザインだ。

花嫁さんと言えばというようなデザインで憧れていた。

「これはずーっとランキングの上位にいるデザインです。

やっぱりシルエットがキレイなんですよねぇ。

どうですか?新郎様。」

私の襟周りを整えて、簡単に髪をアップにしてくれた。

カーテンを開けて姿を見せると、じーっとというかぼーっと見ている。

「似合わない?」

私がそう不安そうに言うと、隼斗は首を強く振った。

「いや、すごく似合ってる。」

いつも以上に断言してくれて嬉しくなった。

次に着たのは、隼斗が選んでくれたデザインだ。

マーメイドデザインと呼ばれるものらしくて、ものすごく大人っぽく見える。

最後にファスナーをあげるのを頼むまでの2人の会話の内容がすごく気になった。

いつも聞き役に徹してくれていた隼斗が何かを訴えているようだった。

そろそろとカーテンを開けて顔を出すと、真剣な顔の2人と目があった。

「今ファスナーをあげますね」と言ってくれた伊藤さんはなぜかすごくにこにこにこにこしている。

不思議に思ったまま出ると、隼斗は晴れやかそうな顔をしていた。

やっぱり自分が選んだのは格別らしく、何枚も写真を撮っていた。

最後に着るのは、伊藤さんが選んでくれたもののはずだったのに、かかっていたドレスがない。

不思議に思っていると、別のコンシェルジュさんが大きなドレスを持ってきてくれた。

さらにもう1人は大きな黒い箱を抱えている。

「伊藤さん、これは?」

私がそう言うと、満面の笑みが返ってきた。

「写真を撮らせて頂きたくて。

新郎様の許可は頂いたので。」

そう言うと、隼斗はうなずいて部屋から出ていく。

「隼斗?どこ行くの?」

「隣の部屋。俺も衣装を借りるんだ。

後で見る未桜のドレス、楽しみにしてる。」

そう言って微笑んで出ていった。

トレーンの長いドレスは、今日見た中で1番輝いていた。

ぼぉっとしている間に、ファスナーが下ろされ、着ていたドレスを脱ぐ手伝いをされる。

あわあわしている間に、着替え、汚れないようにドレスを保護されてから、2人のコンシェルジュさんの手が私の顔や頭の周りをてきぱきと動く。

「目を開けていいですよ。」

と言われたので、恐る恐る開けると、お姫様か!と突っ込みたくなるほど、キレイに仕上げてもらえていた。

「まるで現代のプリンセスのようです!」

「正直メイクの必要がないくらい。」

コンシェルジュさんたちに絶賛され、居心地が悪い。

誉められると素直にお礼がいえない私はひねくれものだ。


伊藤さんに連れられて庭に出ると、隼斗がスーツ姿の人と話し合っていた。

振り返って目があった隼斗の正装は本当にかっこ良かった。

品があって、まるで王子様みたいに。

「まだご結婚はされてないそうなので、指輪はこちらでサンプルを用意させていただきました。

指輪交換のシーンと、誓いのキス、後はこのガーデンエリアで何枚か撮らせていただきます。

ご準備ができ次第始めましょうか。」

伊藤さんが私たち2人にプラチナリングは渡してくれた。

庭からチャペルへの扉を開けて戻ると、日が暮れた後で、ステンドグラスが幻想的に見える。

牧師さんはいないけれど、2人で向き合う。

「こういう時、なんて言うんだっけ。」

確か、隼斗にそう聞かれた。

それで、私は「わかんない」って答えたんだっけ。

「これからずっと俺を愛し続けると誓ってくれますか。」

「はい、誓います。」

2人で真面目な顔をして言ったんだった。

「これから先もお互いに応援し、励まし続けると誓ってくれますか?」

「誓います。」

私の声が震えて、笑われたんだっけ。

隼斗は私の右手を取り、指輪をはめた。

「隼斗、逆じゃないの?」

私がそう言うと、

「左手は俺が選んだのをつけて」

と言って、左手の薬指にそっとキスをした。

カメラマンさんがここぞと撮り、私の緩みきった顔が写真に残ってしまった。

なるほど、と納得して私も隼斗の右手の薬指にはめた。

どんな表情をしているのか、こっそり見ると想像以上に真っ赤な顔をしていた。

驚きを隠せなくて、えっ!と小さく呟くと、顔をあげたのと同時にキスをされた。

そっと抱き寄せられてもう一度される。

離れた瞬間に少し押し戻して文句を言う。

「まだ早いよ。」

「じゃあ未桜のタイミングでよろしく。」

と言われた。

本気のようで、真っ直ぐ立ったままこっちを見下ろしてバカにしているのが分かった。

それならば、と思い隼斗の両頬に手を当てて、自分からキスをした。

離そうと思ったら腰に手が回され、がっちりと固定された。

そのままキスを繰り返し、十分撮り終わったカメラマンさんがごほんと咳をするまで続けてしまった。

お互い照れながら写真を確かめ、担当さんからもOKをもらったので、夜のライトアップがされてある庭に出た。

噴水の水までもがきらきらと輝いていて、ホテルの窓から見るよりも何倍もきれいだった。

「2人でイチャイチャしていらっしゃる所を撮らせて頂くので、お姫様抱っこでも、キスでもなんでもなさってください。」

にやにやした伊藤さんに指示されて、送り出される。

「だってさ。どうしたい?」

噴水の前のベンチに並んで腰掛ける。

「とりあえず手を繋ぐのとハグはしたいな。」

「じゃあ、俺の希望から通してもいいかな。


未桜、俺とまだエッチしてないこと、悩んでるんだろ?」

どうして分かってるのかな。

「だって、長く付き合ってるのにまだキスだけじゃない。

私に魅力がないのかなって思っちゃうよ。」

正直に打ち明けた。

「違うんだよ。本当は。

俺が未桜を大事にしたくて。

体で繋ぎ止めなくても俺と未桜は切れないって思いたかったんだ。

それに、俺はまだ後4年も大学にいる。

未桜は後、2年だろ?

一緒にいられない時間も多くなる。

1回知っちゃったら絶対我慢できなくなる。

未桜がかわいくて、いつも辛いのは俺の方だよ。

俺が好きだって言わなすぎて、不安にさせてたらごめん。

未桜が告白してくれる前からずっと好きだった。

それなのに、『俺も』としか言えなくて後悔してた。

本当はクリスマスにデートに誘って言うつもりだった。

嬉しかったけど、悔しかった。

俺が先に伝えたかったから。

未桜はこれから就職とかで忙しくなるだろ?

今年が正直に言うチャンスだと思った。

ここのホテルがチャペルあるの知ってて予約した。

見学会があったのは嬉しい誤算だった。

おかげで伊藤さんに話すことができた。

6年後の今日を予約できたんだ。

俺が卒業して2年間の地方が終わったら結婚しよう。

それまでお互いの夢を実現できるように頑張ろう。

俺は未桜としか結婚する気ないから、6年なんて余裕で待てる。

未桜は?」

こんなに自分とのことを考えてくれていたなんて、信じられなかった。

確かに伊藤さんが差し出してくれた契約書の日付は6年後だ。

結婚したいなぁと口に出すのも怖かったのに、私はなんてばかだったんだろう。

いつも隼斗は私のことを考えてくれていたのに、それに気づいていなかっただけだなんて。

言葉よりも今までの隼斗を思い出せば一目瞭然だった。

昨日だって乾燥しやすい私にマスクを買ってきてくれたし、絶叫が好きな割りに酔いやすい私をセーブしてくれた。

本当は自分だって絶叫が大好きなのに。

レポートでてんてこ舞いになっていたら、見てられないと言いながら部屋の片付けをしてくれたり、軽いごはんを作ってくれる。

毎年の誕生日やクリスマスだってアクセサリーの時もあるけど、全部私が欲しがっていたものだ。

涼華や美月のアドバイスだと思っていたけど、隼斗が考えてくれていたのかも。

「私だって隼斗と結婚したいって思ってる。

他の人となんて考えたこともない。

でも、重いって思われるのが怖くて言えなかった。

いつも私の夢を応援してくれるから頑張れてるの。

隼斗が頑張って勉強している間に、私は花嫁修業でもしてようかな。

仕事だって絶対成功させる。

2人で夢を実現させてから結婚したい。

だから待ってるね。」

涙でつっかえながらも伝えたいことを伝えられた。

遠巻きで写真を撮ってくれているカメラマンさんたちは聞こえないだろうけれど、穏やかな表情で見守ってくれている。


少し崩れたメイクを直してもらって、写真を撮り終えた。

少し写真の修正を待つ間に、伊藤さんに2人で呼ばれてロビーにあるテーブルに3人で座った。

「先程、石山さんからお話を頂いたので、正式なものではないのですが、書類を作成しました。」

「ありがとうございます。」「何のですか?」

私たち2人の反応は真逆だ。

「未桜には相談してなくて悪かったんだけど、あの撮ってもらった写真を広告として使う代わりに、俺たちの結婚式場として、ここを6年後に予約したんだよ。

それを、口約束じゃなくてちゃんと書類にしてもらったんだ。

契約金を6分割して、毎年納金する契約書を作る。

6年後の今日は大安吉日の土曜日なんだって。

ちょうどいいから、この日にしよう。

この日が結婚記念日だ。」

私は開いた口が塞がらないまま、うなずいた。

今日1日驚いてばかりだ。

2人で連名で署名して、それと伊藤さんと写真を撮ってもらった。



この写真が大々的に広告されて、大きな反響を呼んだのが就職にも繋がったのかもしれない。

私は元々アナウンサーになりたかったが、面接であの広告を覚えてくれていた審査員の方からの印象がよかったようで、第一志望のテレビ局に入れた。