ここは雨のやまない街。理由はわからないが、5年前からずっとこうだ……。

僕はいつものように傘をさして家を出る。
向かう先は喫茶店。ここでウェイターのアルバイトをしている。

―――カラン―
「こんにちわぁ~」
「あら、いらっしゃい!今日は早いのね」
「えぇ、今日から夏休みですからね」
「まぁ…、夏休み……。それじゃあ、いっぱい働いてもらわないとね!」
「まぁ…働くのはいいですけど、僕がいなくても平気ですよね……。お客さん、あまり来ないですし……」
「あら…そうでもないわよ。あなたがいてくれていろいろと助かってるわよ!」
「そうですか…?まぁ、美幸さんがそう言ってくれるなら頑張りますけど」
「ふふふっ、ありがと」
美幸さんはこの喫茶店のマスターである。
清楚な感じの方で、美幸さん目当てでくる客も時々いるくらいだ。
「そういえば、美幸さん……」
「ん…なぁに?」
「さっきここに来る時に歌が聞こえたんですけど………」
「…歌?それがどうかしたの?」
「いや………それがすっごい綺麗な声だったんです。ここに何年も通ってきてるけど、初めて聴いたんですよ」「へぇ…どんな感じだったの?」
「どんな感じ…?う~ん、そうですねぇ…。例えるなら…雨のような声………でしょうか」
「雨のような声…?………それって…どんなの?」
「自然に溶け込んでるって感じですね」
「ほぉ~!そんなに綺麗な声…今度わたしも聴いてみたいなぁ」

僕はここへ来る途中に歌に出会った………。だがその歌は悲しく、雨の音で消え入りそうなくらい自然だった………
歌を聴くかぎりでは女の子が歌っているであろうその歌は…暗く、この雨のような気持ちを旋律にしたもののように聞こえた………………


―――続く―――