「俺も君の声も君たちの曲も大好きでファンだったんだよ。」
「人違いじゃないですか?似ている人は多いですから。」
奈央がごまかして逃げようとすると鋭い視線を向けながら男は言う。
「俺はカメラマンだ。今まで自分の携わってきたことに誇りを持ってるし、ひとつひとつ大切にしてる。だから見間違いなんてありえない。」
その視線に奈央はひるむ。どう切り返そうか考えていると男は不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、違うって言うならこの場で歌ってみてよ。別人なら声も違うだろ?」
「すみません、私飲み物を運ばないとならないので。」
奈央がぎこちなく笑いながらその場を離れようとすると男は再び奈央の手をつかんだ。
「じゃあ、大きな声でそのことを言ってもいいんだ。」
半ば脅しのような男の言葉に奈央は恐怖に足が震えた。

「すみません。できません」
奈央の言葉に男がわざと大きな声を出す。
「え~聞きたいな。君、歌かなりうまいんだろ?」
男の声に周りのWOMANのスタッフも注目し始める。
「そうなの?」
とほかのスタッフの視線が奈央に集まる。
「いいえ。勘違いです。私音痴なんで。」