警察署の前で車は止まった。
 すると、椋は蛍の手首にある手錠を外したのだ。蛍は驚いたように顔を上げて、「何してんの?」と、表情を曇らせた。


 「俺は今日非番なんだよ。だから、さっさと1人で自首してこい」
 「………お人好しって言われるだろ?」
 「さっさと行け」
 「私も途中まで行くね。椋は待っててくれる」
 「…………わかったよ」


 椋のジャケットを上から羽織った花霞は、蛍と一緒に歩いた。朝日が昇り、街はキラキラと輝いている。


 「蛍くん………私に会いに来てくれてありがとう」
 「………何ですか、急に」
 「蛍くんにお花の事教えたりする時間楽しかったよ。どんなブーケを作ろうか考えたりするのもすごく面白かった。男の人の可愛いがわかった気がする」
 「……………また、話せたらいいね」
 「うん!………待ってるから。ううん、会いに行くから」
 「…………花霞さん、ごめんね。…………そして、ありがとう。俺、たぶんラベンダー好きになるよ」
 「…………うん」


 そう言って笑う蛍は今までで一番輝いていて、かっこいいと思った。
 蛍が手を差し出したので、花霞も彼の手を握った。それは、とても温かい感触だった。
 蛍を見て、微笑みかけると蛍はニコッと笑い花霞の腕を引っ張った。

 前のよろけてしまい、蛍に近づくと一瞬頬に温かい感触を感じた。
 ハッとして蛍を見ると、唇を舐めて「ごちそうさま」と笑っていた。
 蛍に頬をキスされたとわかり、花霞は手で頬を押さえて顔を赤く染めた。


 「蛍っっ!!おまえ、何やってんだー!!」


 車からそれを見ていた椋が大声を出して、こちらへ向かってくる。
 それを見て、蛍は「わ………やばいやばい!」と、言いながら警察署の入り口まで走っていってしまう。


 「蛍くん!」


 花霞は後ろ姿の彼を呼び止める。
 すると、蛍はくるりとこちらを振り向き、すこし切なそうに笑った。


 「いってきます」


 そういうと、蛍はゆっくりと警察署の中に入っていた。

 そんな彼を、花霞と椋は静かに見送ったのだった。