「昔は書店にも出回ってたみたいだけど、今はネット販売だけみたいだな」


「本当だね。だからあたしたちは見たことがなかったんだね」


50年間の創刊号は書店にも出回っておらず、ただ自分で書いた原稿を印刷し、冊子の形にしていただけのようだ。


「完全に趣味でやってるな。ここじゃなにも出て来そうにないよ」


あたしがそう言ったが、広貴は「念のため」と言って、今から40年前の雑誌の表紙を確認しはじめた。


その年は宝来家がなくなった年だ。


「やっぱり、この辺で宝来家は有名だったんだな。雑誌の特集になってる」


広貴が見つけた画像を確認して行った。


確かに、その年の表紙は宝来家の写真が使われていて、大きな文字で《宝来家の崩壊!》と書かれている。


人の不幸をそのままネタにするのはあまり好きじゃなくて、あたしは一瞬顔をしかめた。


でも今は、そんなこと言っている暇はない。


今日もまた、あたしたちはあの部屋に引きずりこまれてしまうかもしれないのだから、少しでも多く情報を取っておく必要があった。