ポルターガイスト~封じられた扉~

「あぁ……」


紀人がTシャツから除く右腕を確認している。


ぶつかった箇所だけ奇妙に曲がっているがわかって、あたしは咄嗟に顔を背けてしまった。


折れているかもしれない。


「早くここから出ないと! 手当てしないと大変なことになる!」


愛奈は焦り始めるが、この部屋には出口がない。


「大丈夫だから」


紀人は愛奈を安心させるためにそう言っているが、額には汗が滲んできていた。


相当痛むのだろう。


あたしは亜香里ちゃんの横へと移動した。


しっかりと目が閉じられていて、規則正しい呼吸音が聞こえて来る。


しかし、漏れて出て来る息はどぶ臭い臭いがした。


目からあふれ出した黒い涙と同じ匂いだ。


思わず自分の鼻をふさいでしまいそうになりながらも、あたしは亜香里ちゃんに話かけた。


「お願い亜香里ちゃん、ここから出して? 友達がひどい怪我なの」


できるだけ優しい声で囁きかける。


しかし、亜香里ちゃんは寝息を立てるばかりで反応しない。