幼い頃沢山美術館へ連れていかれれば絵に詳しく敏感な子になるだろうし、大人たちと一緒にすごせば大人っぽくなるのも早いだろう。


「だけどその間、お姉ちゃんの亜香里ちゃんの方がおざなりにされがちになってしまった。家にいてもあまり弟と遊ぶ時間が持てず、1人で部屋にこもってお人形遊びをすることが多かったみたいだ」


「もしかして、虐待ですか?」


そう聞いたのは元浩だった。


あたしは驚いて目を見開く。


ここにいる全員が聞きたくても、我慢していたのに。


紀人が左手で元浩の肩をつついた。


「いや、そこまではいかなかったと聞いているよ。でも、家族の誰もが亜香里ちゃんのことを見なくなった。亜香里ちゃんのことを一番面倒見ていたのは、僕の奥さんだ」


直接的な暴力がなくても、虐待は虐待だ。


岩谷さんの奥さんが家政婦として宝来家にいなければ、亜香里ちゃんは完全に独りぼっちになっていたところなのだから。