「アタシから逃げようとするってことは自分の本当の気持ちから逃げてるのと同じことだからね?」


岩沢は真面目な顔でそう切り出した。


「だから私は別に岩沢を避けたりしてないってば。ましてや逃げようとなんてしてないし。確かに岩沢は人をよく見てるし、私のこともよく見てくれてて体調気遣ってくれたり残業手伝ってくれたりすることも多いけどさ。今回ばかりは本当に違うの」。

「何が違うの?」

「何がって、岩沢は私が神田くんのこと気にしてるっていうけどそれは違うもの。神田くんはいい部下よ。そういう意味では気にかけてる。でもね、違うの。そういう意味じゃない。私が好きなのは秋だけだから。」

「アタシにはあんたが無理してるようにしか見えないな。私が好きなのは秋だけとかアタシからしたら自分の気持ちに蓋しようとして必死になってるとしか思えない。あんた自分で気付いてないかもしれないけどね、あの新人くんを見るときの目が違うのよ。」

「どういうこと?」

「あんたはあの新人くんを特別な目で見てる。部下とか結婚してるとかそんなことは考えてない。あんたは新人くんを求めてる。アタシにはそう見える。」

「何言ってるの?神田くんは部下だし、私は結婚してる。それが揺るぎない事実でしょう?求めてるって何?そんなわけないじゃない。やめて。」

「男と女が惹かれ合う時は理屈じゃない。分かってるでしょ?小宮山。あんたが今の旦那に惹かれた時も、理屈じゃなかったでしょう?」

「秋と私は運命だったの!だけど神田くんとは違う。そもそも惹かれ合ってるて何?今日の岩沢の言ってること本当によく分かんない。」

「運命ってあんたねえ。…でもあんたの言葉を借りるなら、新人くんとの出会いがあんたにとっては運命だと思うけど。」


運命、、、そんな簡単に言わないでよ。
私の運命は私が決める。岩沢にだってそれは決められない。


「なんとなく分かるわよ。あんたが考えてること。でもこれだけは言わせて?あんた気付いてないかもしれないけど、あの新人くん。あんたのこと相当好きよ?」